2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月7日

 米国は8月に国連安保理で対イラン制裁の復活を提起したが、退けられた。8月の安保理で米に賛同したのはドミニカ共和国だけだった。しかし、ポンペオ国務長官は9月19日、「制裁は30日の予告期間が経過した同日に自動的に再適用(スナップバック)された」と発表した。米国は孤立しており、何をしたいのか分からない。

(DVIDS)

 9月20日付けのニューヨーク・タイムズ紙社説は、以下の諸点を指摘しつつトランプ政権の対応を批判している。

⑴ トランプは一貫してイラン合意を崩壊させようとしてきた。それは米国の国際コミットメントに対する信用を疑わせる。

⑵ 国務省の法的見解は、安保理の決議は合意参加国として米国を列挙しているので米国は今も合意の当事者だというが、それは成り立たない議論だ。

⑶ 米国が合意を離脱したことは厳然たる事実であり、如何なる法的歪曲もそれを変えることはできない。合意の良いところだけつまみ食いすることはできない。国際約束とはそういうものではない。

⑷ イランに向かう船舶を米国が阻止しようとすれば大統領選挙を前に軍事衝突になりかねない。

⑸ 重要な問題は米国の制裁復活により核合意自体が崩壊するかどうかだ。トランプ再選になれば、イランが合意を離脱するかもしれない。そうなればイランと米国、イスラエルは衝突コースを進む。

⑹ 武器禁輸が終わる10月までにはなお時間があり、その間に外交をする余地もある。

⑺ トランプにはプランBがない。トランプ大統領就任時と比べるとイランは核保有に一層近づいている。

 これらの指摘は全くその通りであろう。米国の法律論は相当無茶である。米英などの国連代表部には強力な法律顧問がいるが、指導部は耳を貸さないのだろう。協定を脱退すれば協定の下での権利を援用できなくなることは国際法の基本である。国際約束を正しく理解し、順守することは国際信用と外交の安定性に不可欠だ。米国の議論、最近の英EU離脱の国内法の議論、日韓協定に係る議論など国際約束軽視の風潮は由々しいことだ。こうした風潮の責任は主として指導者自身にある。

 トランプ政権のイラン政策は最初から問題があった。核合意からの離脱もオバマ外交の逆転が最大の理由だった。戦略的なものがあったとしてもそれはイランを追い込みイランから核合意を破棄させたかったか、あるいはレジーム・チェンジを引き起こしたかったからであろう。しかし戦略は、達成可能な目的、それを実現するための手段、優先順位、失敗した場合の代替案、現実的な時間枠がなければならない。トランプのイラン政策は、いずれも欠けていたと言わざるを得ない。

 いずれにせよイラン問題は大統領選挙待ちであろう。イランも合意を維持していく意向を述べている(少なくとも大統領選挙までは)。但し、それまでにトランプがおかしなことを仕掛ければ危険なことになりうる。また、トランプ再選になればリスクが高まる。バイデンが勝利すれば双方とも何らかの交渉につく可能性が高いのではないか。「バイデン政権」ならば、もっと現実的な戦略で臨むだろう。その場合核だけに限定せずミサイルや地域外交を含むもっと大きなパッケージを作ることが有益ではないか。そのためには、「バイデン大統領」は先ずイスラエルや湾岸諸国、欧州の同盟国などとの関係を早期に固めることが重要となる。

  
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