2024年12月24日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月29日

 北朝鮮の国営テレビは10月10日、朝鮮労働党創建75周年を祝う大規模な軍事パレードを放映した。その中で注目されたのは、片側11輪の移動式発射台に乗せられた新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)の登場であった。専門家の分析によると、新型ICBMは、北朝鮮が2017年11月に発射した、最大射程1万3000キロに及び米本土を射程に収めると見られる「火星15」として知られる移動式ICBMの拡大型であるようだ。今回の新型ICBMは、積載量が「火星15」の2~3倍に達し、複数の弾頭が装備可能な「多弾頭型」であるか、あるいは、ミサイル防衛を突破するデコイ(おとり)を運搬する可能性もあると見られる

Gerasimov174 / iStock / Getty Images Plus

 パレードで見られたものは単なる実物大模型であった可能性もある。そうだとしても、世界最大の移動式ICBMが北朝鮮に現れたことは、トランプが北朝鮮の核計画とそれが米国に与える脅威を排除するどころか封じ込めすらできないことを明白に示している。10月13日付けワシントン・ポスト紙社説‘North Korea’s monstrous new missile is a reminder of Trump’s failure to contain the regime’は、「トランプが人殺しの指導者金正恩に親愛の情を示す間に、核兵器の貯蔵量とミサイル能力を拡大し続けてきた」と酷評している。

 今回の新型ICBMはまだ実験されていない。トランプ政権は2017年以降、北朝鮮が核とICBMの実験を止めるよう金正恩を説得することには成功し、トランプはこれを大きな成果であると誇っている。それは確かに一つの成果であることは間違いないが、その間、北朝鮮は核とミサイルの能力を着実に向上させている。つまり、北朝鮮の非核化を目指す米国の政策は全く成果を上げておらず、失敗と言わざるを得ない。

 この時期に新型ICBMの存在を誇示した背景などは今ひとつ明確ではないが、北朝鮮によるICBMの実験停止は、米大統領選挙までは続くだろう。北朝鮮は、トランプの再選を望んでいると思われる。いずれにせよ、北朝鮮は、大統領選挙を待って、新大統領と米国の北朝鮮に対する制裁の解除ないし緩和を目的として交渉したいと考えているのだろう。

 しかし、北朝鮮が核やミサイル能力を大幅に削減することは考えられない。元旦の挨拶では、金正恩は「先進国のみが所有する最先端の兵器体系を開発している」と述べていた。これは、北朝鮮が引き続き核能力を維持し強化することを目指していることを示唆している。米国や我が国及び西側世界は、北朝鮮の核、ミサイルの既成の能力を前提に、これをいかに削減させるかについて検討する必要がある。

  
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