輸出にラボ開設、コロナ禍でも新たな取り組み
さらに、受賞後の09年から北米を皮切りに輸出を始める。「学生時代にバックパッカーをしていた私自身は、ボーダレスな人間。海外に打ってでるとか、特別な意識はなかった。欲しい人がいれば、世界にも出していく、という考えでした。
当時、日本食が先進国を中心に評価が上がっていました。日本食には日本のビールが合う、原料は川越で収穫されたサツマイモですと、訴えました」
ビールの展示会に出品するなど西海岸から攻略し、北米市場に入っていく。現在までに欧米やオーストラリア、香港やタイなど24カ国に輸出している。昨年、全販売量の約3割は輸出で占められ、そのほとんどはレストラン向けなどの業務用だった。
モンドセレクション最高金賞獲得という意味だけでなく、サツマイモをやめなくて正解だった。周りからどう思われるかではなく、向かうべき姿に基づくリーダーの決断が、良好な流れを引き寄せた。テロワールにまで及ぶコンセプトメイクがなければ、別の決断をしていたのかも知れない。
15年、「コエド クラフトビール・ワンサウザンド・ラボ」を埼玉県川越市に開設。1000リットルという小規模な醸造施設で1000種類のビールを試作していく「ラボ」というコンセプトだ。
さらに16年には埼玉県東松山市にあった精密機器メーカーの研修施設を買い取って、三芳町にあった工場を移転させた。
20年に入りコロナ禍に直面するが、NECとコラボしてAIの活用による各世代を表現するビールを商品化するなど、新しい取り組みも見せている。
「自社で麦の栽培に着手していて、サツマイモだけでなく地元産の麦も原料として使っていきます。ビール造りを通し、地域の農業と関わっていくわけで、ビールと農業の融合を果たしていきたい。豊かなテロワールをベースとして」「いま目指しているのは、本当の意味の地ビールです。地域の人々の生活に、ごく自然に醸造所がある。多種少量生産により、小さなコミュニティが多様に成立する社会は、健全で面白いと思います」
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