マレーシアの戦略・国際問題研究所外交安保研究所のタン所長が、7月3日付の同国のニュー・ストレイト・タイムズ紙に、「難しい“リバランシング”」と題する論説を寄稿し、ASEAN諸国は、米のアジア回帰について、簡単に考えて歓迎するのではなく、対中関係をも考えて慎重になるべきだ、と論じています。
すなわち、中国は経済成長でこの地域に貢献してきた。しかし人民解放軍の近代化は懸念材料だ。ただ、もう一つの戦略的展開である米軍のプレゼンス増大にも注意を向けるべきだ。
昨年、クリントン国務長官は、東アジア・太平洋が米戦略で重要であると述べ、パネッタ国防長官は2020年までに大西洋と太平洋の艦船の比率を今の50対50から40対60にすると述べた。
米国は基地ネットワークの再構築ではなく、地域諸国との協力の拡大を望むとしている。シンガポールは沿岸戦闘艇の配備に同意し、豪州は海兵隊の配備に同意した。もしタイとフィリピンがシンガポールや豪州と同様なことをすると、米軍はインド洋東部から南シナ海への戦略的海路への前例のないアクセスを持つにいたる。日韓での基地機能がそれに加わる。
ASEAN諸国は、米国の軍事力拡大の長所、短所についてもっと用心深くあるべきだ。軍事施設は戦略的目標を達成するための道具であり、人道支援や災害救援の文脈だけで考えるのはよくない。
米国の「リバランシング」戦略は、地域諸国の中国との関係に影響を与える。米国の戦略を受諾することは、対中ヘッジなのか、対中バランスへの政策変更なのか。ASEAN諸国は、この選択を回避するように努めてきた。もし中国が脅威でないのであれば、軍事力は減らされるべきだ。協力を主張しながら戦略的競争に備えることには、根本的な問題がある。
対中ヘッジングのコストは上がっており、ASEAN諸国が困難な決定をしなければならない時は近づいている。解決策は平和、自由、中立地域の再確認にあるのだろうか、と論じています。
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日本から見ると、中国の軍拡が進んでおり、それに対応する必要があるので、米国のアジア重視への戦略変更は大いに歓迎されることです。しかし、タンは、そうは考えず、ASEAN諸国は米軍のプレゼンス強化とその対中意味合いを考え、慎重であるべきだと言っています。