世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年1月21日

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 1月4日、イランは二つの新たな挑発に出た。一つは、濃縮ウランの濃縮度の20%への引き上げプロセスの開始である。濃縮度を5%から一層上げることは、米国が脱退した2015年のイラン核合意に対するさらなる違反であり、兵器級の濃縮ウラン(90%の濃縮度)の生産に一歩近づくことになる。もう一つは、革命防衛隊の海軍が、「海洋汚染防止法に違反し続けた」として韓国(昨年、海賊対策でアデン湾に派遣している艦艇の活動範囲をホルムズ海峡に拡大した)のタンカーを拿捕、5名の韓国人を含む20名の乗組員全員を拘束したことである。

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 バイデン米新政権が発足する直前にペルシャ湾情勢が急速に緊張を高めたことは、ホルムズ海峡依存度が90%の日本にとっても他人事ではない。万が一、ホルムズ海峡を通って輸入される原油が止まったら、原油の戦略備蓄が約200日あるとしても日本経済に及ぼす心理的なインパクトは甚大なものがあると思われる。

 年明け早々の米国とイランの間の緊張の増大を、昨年の米国によるソレイマニ将軍の暗殺1周年と結びつける考えもあるが、状況はもう少し複雑である。

 これまでイランは米国と交渉する前提として、トランプ政権が核合意から離脱してイランに対して課した制裁を解除する必要がある、と主張していた。しかし、現在では、イランが核合意へ復帰することを絡めて制裁の解除について米国と交渉すること自体は規定の事実となっているように思われる。

 イランが制裁解除の前提条件を撤回したのは、米国の制裁に加えて新型コロナによる経済に対するダメージが深刻でイランとしては米国と交渉して制裁を解除させないと経済が保たないところまで追い込まれているためではないかと考えられる。しかし、交渉を受け入れることにより、イランは取引のカードを失ってしまうことになる。今回、濃縮ウランの濃度を20%に引き上げたり、韓国のタンカーを拿捕したりしたのは、イランが米国との交渉を有利に進めるために国際社会に圧力を掛けて国際社会がバイデン新政権に圧力を掛けるよう仕向けようと目論んだのではないだろうか。

 イランのやり方は「迂遠な戦略」のようにも見えるが、1980年代のイラン・イラク戦争の最中の「タンカー戦争」の前例に鑑みれば十分あり得ることのように思われる。「タンカー戦争」のあらましは次の通りである。イラクはイランから原油を運ぶタンカーをペルシャ湾で空爆しイランの原油輸出は激減した。しかし、イラクは陸路パイプラインで原油の輸出をしていたのでイランは報復出来なかった。そこで、代わりにホルムズ海峡で革命防衛隊のスピード・ボートがサウジやクウェートに向かうタンカーを攻撃した。さらにエスカレートしてペルシャ湾内で機雷を敷設してペルシャ湾からの原油の輸出を妨害し、イラクを支援するペルシャ湾内のアラブ産油国及び原油の輸入が不安定化して困った消費国に圧力を掛けてイラクにタンカー攻撃を止めさせようとした。

 但し、この「タンカー戦争」の顛末はイランの思惑通りとはならず、最後は米国が介入し、米軍の巡洋艦がイランの民間航空機をイラン空軍機と誤って撃墜するという悲劇を生じている。こうしたことを考えると、関係の無い国を巻き込むというこの作戦がイランにとり吉と出るかは分らない。

  
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