2022年7月3日(日)

WEDGE REPORT

2021年3月20日

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スズキ・トモ ((すずき・とも))

早稲田大学商学学術院、Oxford Institutional Mechanism Design(OxIMD)教授

公認会計士第三次試験合格。大手監査法人での銀行等の監査や上場準備を経て、LSEにて「社会科学哲学(修士号)」、オックスフォード大学にて「会計・経済の哲学(博士号)」を取得。オックスフォード大学常任講師・リーダー・主任教授(サステナビリティ・マネジメントと会計学)を務め、幾多のBest Professor賞を受賞。在英20年後、日本へ帰国、早稲田大学にて復職。
 

 事業への再投資は、この従業員による貸し付けと株主による剰余金積立額の合計1175億円となる。さらに、政府への分配は1328億円から1646億円に増加する(図5)。これは当期純利益を抑えたために法人税等は減少するものの役員及び従業員への報酬が増加することに伴う所得税や住民税や法定福利費が増加するためである。法人による万国的な租税回避行動が蔓延する中、役員や従業員の所得を上げたうえで税収をあげることは合理性の高い制度設計である(詳細は、早稲田大学スズキ・トモのホームページを参照)。

(出典)筆者作成
(注)自己資本配当率を(6%から)5%で合意したと想定して、残りの付加価値を次の割合で分配したときのシミュレーション。 配当後、残余分配可能額を役員への分配:従業員への分配:事業再投資=0.5%:59.5%:40%で分配を想定。実際の有価証券報告書の9社平均を用いた会社。 写真を拡大

 小括するに、DoEを1%下げることによって株主への分配は一時的に減少するが、長期金利がほぼ0%という経済環境で倒産リスクの少ない企業ABC社が今後3年間で5%のDoEを約束するのであれば、それに見合う投資に合意する投資家・株主は一定数存在するものと考える。

 特に、役員、従業員、事業再投資や政府に対する分配が十分に増加し、従業員が自ら事業をモニタリングし、安定した配当を長期に可能にする制度であれば、投資コストも減少し、株価も安定し、全てのステークホールダーにWin-Winの関係を構築しうる。ミクロのケースにすぎないが、欧州ではこうした例としてユニリーバの経営と株価の関係がよく研究されている。

 ユニリーバのポール・ポールマン氏は08年、CEOに就任するにあたって四半期決算の開示を中止すると宣言した。直後に株価は急落したが、以後10年、同社の株価は大きく伸びている。なぜなら、株主といった外からのガバナンスを強化して成長するのではなく、社内改革を行い、従業員の連帯感と意識を高める、内生・自立の成長モデルに転換したからだ。

 このような新しいモデルやシミュレーションが示唆するところは多い。例えば、一つには優れた学生や従業員のリクルートに際して、企業がアピールすべき指標である。今日、ROEや配当額がビジネス界の主たる指標であるが、最も大切な「ヒト」が注目するのはステークホールダー間で分配される適切な付加価値分配割合である。初期の研究段階のデータにとどまるが、早稲田大学の学生を対象とした調査ではPLにおける利益最大化行動を経営方針としている会社よりも、DSにおいてステークホールダー間で適切な分配を経営方針としている会社の方が、就職先として人気が高い。

 次に、労働組合の今後の活動のあり方である。これまで労働組合は経営者と対峙することにより賃金上昇を交渉し勝ち取ってきた。しかし、労働者が戦うべきは経営者ではなく、株主ではないか。実際多くの経営者は従業員に十分高い給料を得てほしいと思いながらも、無理な利益最大化や配当要求のために、必要な経営方針を実行できないでいることを理解する必要がある。

 今後はこうした経営指標をベースとしたリクルートの展開やサステナブルな経営の推進が求められてゆくものと考える。カネ余りの現代日本において望ましい政策は、投資家や株主の保護ではなく、動機づけられ、アイディアを生み、会社に忠誠心のある従業員や、そうした従業員をリードする優れた経営者を育てる仕組みである。「ヒト」に十分な動機づけを与える制度としてのアカウンティングを開発したい。

Wedge2月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■資本主義の転機 日本と世界は変えられる
Part 1       従業員と家族、地域を守れ 公益資本主義で会社法を再建
Part 2       従業員、役員、再投資を優先 新しい会計でヒトを動機付ける       
Part 3       100年かかって、時代が〝論語と算盤〟に追いついてきた! 
Part 4     「資本主義の危機」を見抜いた宇沢弘文の慧眼
Part 5       現場力を取り戻し日本型銀行モデルを世界に示せ    
Part 6/1    三谷産業  儲かるビジネスではなく良いビジネスは何かを追求する    
Part 6/2    ダイニチ工業  離職率1.1% 安定雇用で地域経済を支える   
Part 6/3    井上百貨店  目指すは地元企業との〝共存共栄〟「商品開発」に込める想い       
Part 6/4    山口フィナンシャルグループ  これぞ地銀の〝真骨頂〟地域課題を掘り起こす
Part 7       日本企業復活への処方箋 今こそ「日本型経営」の根幹を問え

  
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◆Wedge2021年2月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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