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2021年3月20日

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スズキ・トモ ((すずき・とも))

早稲田大学商学学術院、Oxford Institutional Mechanism Design(OxIMD)教授

公認会計士第三次試験合格。大手監査法人での銀行等の監査や上場準備を経て、LSEにて「社会科学哲学(修士号)」、オックスフォード大学にて「会計・経済の哲学(博士号)」を取得。オックスフォード大学常任講師・リーダー・主任教授(サステナビリティ・マネジメントと会計学)を務め、幾多のBest Professor賞を受賞。在英20年後、日本へ帰国、早稲田大学にて復職。
 

 成熟経済社会下の日本(中国、インドも追随)の経営や経済運営には新しい発想と制度の再設計が不可欠だ。いまだに投資家を保護し優遇することで一定の成長が見込まれる英米型のルールに追随していては、日本企業の生み出した付加価値は海外や一部のステークホールダーに偏重分配され、日本全体のサステナビリティが棄損される。成熟経済を迎えた今、希少なのは、カネではなく、アイデアやプライドを持ったヒトである。動機を与え、人を育て、優秀な人材を経済全体で活用できる制度を設計する必要がある。

 具体的に、早急に、その新しい制度を構築するカギとして「トリプルライン・アカウンティング」を紹介する。トリプル、つまり①従業員②役員③事業再投資を優先してアカウンティング(会計)すべきという考えだ。

日本は「成熟経済社会」であり
欧米とも新興国とも違う

 日本は中国やインドなどの新興国とも英・米などの先進国とも異なる『成熟経済社会』を迎えて久しい。これを正面から認めることなく旧態依然とした形で英・米で開発された経済政策や経営手法を継続することは、日本のサステナビリティを棄損することに通じる。ここに「成熟経済社会」とは、マクロ政策単位で「①準完全競争②準需要飽和③人口減少」が定着した状態を指す。

 ①準完全競争とは、ミクロ企業単位ではさらなる競争を展開する余地を残すものの、マクロ市場全体では競争の結果として極めて質の高い財サービスを安価で提供している状態である。消費者には好ましい状態であるが、企業にとっては努力しても超過利潤が生みにくい困難な構造でもある。

 ②準需要飽和とは、準完全競争の恩恵を受けて質の高い必需財・サービスを安価で享受できるようになった上に、1980年代の贅を尽くしたバブルをも経験して奢侈(しゃし)財・サービスに対する需要さえ飽和してしまった状態である。

 ③人口減少については、国内の人口減少そのものについては一定の理解が進んでいても、国際比較においての理解が甘い。人口減少は先進国に共通に観察される事象と勘違いされがちであるが、例えば英・米は今後100年も人口が順調に増加する。これは「英語」に支えられた移民流入による便益である。人口成長を基礎とする長期潜在的成長率の安定性において、英・米の優位性は新興国のそれをも凌駕する。

 そうした中で日本は、人口減少が加速し、生産人口も消費人口も減少し、これが長期に続くことが予想されている以上、国内の経済活動に弾みがつかないのは当然であろう。筆者は一般に「失われた10年、20年、30年」と表現される91年以降の停滞は、実は「成長の機会が失われた状態」ではなく構造的な「成熟経済社会」の深化であり、これを素直に受け入れなければマクロレベルのサステナビリティを推進することは難しいと考えている(これは、個々の企業、ミクロレベルの企業努力とは別の次元の話である)。

 英・米では従来どおりの投資による経済成長モデルが成立しうるが、成熟経済社会下の日本や将来の中国・インドでは全く新しい発想が求められる。

 実際、本稿で紹介する成熟経済社会の管理手法としてのトリプルライン・アカウンティングに関心を寄せるのは、英・米よりは、四半世紀後に最も深刻な成熟経済社会を迎える中国やインドの政府関係者である。

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