マイナンバーカードは
「手段」先行ではいけない
政府がいくら予算と組織を揃えても、国民の日常生活や普段の行動自体がオンラインへと移行しなければ十分とは言えない。今後わが国が目指すデジタル社会におけるオンライン手続きの上で本人確認の手段となるのが、マイナンバーカードの公的個人認証機能だ。政府は、デジタル化後の社会基盤となるこの手法を普及させるために、今後さらにカードの利便性を高め、国民の取得を促す。菅義偉首相は「22年度末までにほぼ全ての国民がカードを取得する」という目標を掲げており、そのために運転免許証との一体化や、公的個人認証機能のスマートフォン搭載、手続きができる窓口の郵便局・金融機関・コンビニ等への拡充など、さまざまな施策が実施される予定だ。
だが、16年から運用開始したマイナンバーカードの取得率は20年12月現在、わずか23%にすぎない。特別定額給付金申請で注目が集まり普及率が伸びているが、今後2年間でその4倍もの水準を目指すのは非常に高い目標だ。
もちろん、マイナンバーカードの取得を義務化して国民に送付したり罰則を設けたりすれば目標は達成できるが、政府はそこまで踏み込む予定はない。その背景には、政府が行う情報管理に対する国民の不信感への負い目があると思われる。
そもそも、マイナンバー制度が成立したのも、政府が信頼を獲得したからではなく、政府がデータを適切に管理できていなかった08~09年の年金記録問題が背景にある。この問題では、社会保険庁が国民のデータを適切に管理できず、年金の給付漏れが発覚した。さらに職員による記録の改ざんや有名人の記録の覗き見など、社会保障の信頼性を揺るがす事態となった。その反省を受けて、政府が適切にデータを管理し、社会保障・税・災害対策の3分野で「国民の利便性の向上」「行政の効率化」「公平・公正な社会の実現」を実現するためのものとしてマイナンバー制度は成立した。
したがって政府は、それら目的を国民にはっきりと伝えるとともに、マイナンバー制度自体やマイナンバーカード利用の関連施策におけるデータ管理体制を確立しなければならない。
例えば、預金口座へのマイナンバー紐付けについて「情報を政府に見られるのではないか」といった批判があるが、これに対して「お得感」や「利便性」だけではなく、また「意義」だけでもなく、かつて年金記録を覗き見し改ざんしていた社会保険庁の反省をどうガバナンスに活かしているのかを明確に説明していく必要がある。併せて、いつ誰が何の目的で自分のデータにアクセスしたのかを自ら確認できる仕組みを設けるなど、データ管理の透明性を高めることも求められる。
新型コロナ感染拡大防止を目的としたクラスター対策では、携帯電話の位置情報を活用した混雑状況の把握など、民間企業が保有するさまざまなビッグデータを政府が活用し、国民に対して情報提供を行った一方で、大きな課題も残った。