厚生労働省は、3月末に民間企業に対してクラスター対策に資する匿名データの提供を求めたが、当初は政府側の利用意図や管理方法などが曖昧であった。政策効果を発揮するのは間違いないが、少なくとも官民連携を行う際には、データを利用する目的や期間、管理体制、撤退条件などを取り決め、分析結果を報告するなど透明性を高めていくことが求められるだろう。今回の新型コロナ対策では、ヤフーなどが政府に要求してデータ提供に関する協定を結び、利用目的の共有や成果の報告などを事前に取り決めた。これらを今後の雛形としていくべきだ。
また結果として民間企業が政府に提供したデータは基本的に統計化され、個人を特定するものではなかったが、携帯電話の位置情報や検索履歴情報などは個人のプライバシー性が高く、それらを政府に知られたり活用されることを警戒する人は少なくない。
厚労省はコロナ禍の20年6月、警察庁の依頼に基づき、自治体や保健所に対し、感染者の情報を本人の同意や照会書なしで警察に提供するように求める通知を発信し、SNSなどで大きな批判の的となった。警察庁は「不特定多数と接することの多い警察業務の遂行上必要な情報」と理由を述べるが、このように、感染症対策を機に「監視国家」化が進むことで、感染収束後も政府は監視を続けるのではないかとの懸念は早くから指摘されていた。
実際に、中国やイスラエルなどでは民間データを利用したと推測される個人の追跡や濃厚接触者への注意喚起通知が実施され、感染症対策に結びついたという見方もあるため、同様の思惑が政府にあっても不思議ではない。今回のデジタル改革の議論の中でも、「相当な公益性がある場合」に限り、本人同意やデータ所有者による許諾を省略した政府のデータ利用を認める「データ共同利用権」が提起されたこともあったが、広く政府に裁量を持たせることに日本国民の理解を得るのは容易ではないだろう。
政府は自らの影響力を自覚し
データ運用の透明性を確保せよ
本格的なデジタル社会において政府が巨大なデータ管理者、あるいはデータ活用者となることには一定の意義がある。だからこそ政府は自らの影響力と責任を改めて自覚し、文書・データの改ざんや漏洩、目的外利用、権利侵害などを防ぎ、社会から信頼されるようガバナンスを確立・発展させていくべきだ。
また、発信の仕方を工夫しながら、改革の目的やプロセスを国民にしっかりと伝え、双方のコミュニケーションをとらなければ上手くいかないだろう。政府のデータ運用を管理・監督する機能を、民間企業へのチェック機能を持つ個人情報保護委員会に追加で持たせるなど、運用のガバナンスと透明性を確保する体制の整備も、国民の信頼を得るうえでは重要である。
デジタル庁を〝砂上の楼閣〟としないために、そして、今度こそデジタル改革を成功させるためにも、明確な「必要性」の提示と政府のデータ管理に対する「国民の信頼」が求められる。
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