2024年7月21日(日)

WEDGE REPORT

2021年2月27日

不満を口にすることもできない

 日々の衣食住の問題だけではない。レバノン人とシリア人との間に起きる尊厳の問題である。

 「2日前にタクシーに乗った時に、ここで降りたいと言ったら『黙れ、お前らシリア人は犬だ。口を聞くんじゃない』そう言われました。自分の価値を失いました」

 「13歳の息子はレストランで働いていますが、嫌がらせを受けたりしています。そのことがトラウマとなって息子は明るいところでしか眠れなくなりました」

 レバノン人とシリア人の間の緊張は高まっている。レバノン自体が経済危機下にある。ただでさえ生活が苦しいのに、シリア難民に仕事を奪われたという感覚があるのだ。また国連やNGOなどから支援のあるシリア難民へのやっかみもある。

 昨年末には仕事の支払いを巡ってレバノン人とシリア人が対立し、レバノン人がシリア人居住地に放火してテント100近くのテントが消失する出来事があった。

 「レバノン人とシリア人との対立は、一部の人たちのことです。シリア難民を受け入れてくれていることに感謝しています」

 そう話す人たちもいた。実際、無料でテント小屋に住まわせてもらっているシリア人家庭もいた。良好な関係を築いている人たちもいる。しかし時に問題はないと強く主張する言葉が、逆に緊張感の存在を示しているようにも感じられる。

 「レバノン人との関係を問題ないという人もいるかもしれません。でもそれは報復されるのが怖いから。だからそうやって言っているだけなんです」

最近、シリアから初めて逃れてきたというロマの人たち

 コロナ禍やレバノンの経済危機で状況は悪化している。すでに述べたように今回、私が取材したことは特に目新しいことではない。基本的には悪いということはかわらず、悪い状況が10年続いているか、あるいは悪化しているだけなのだ。

 レバノンでの難民としての暮らしがそれほど厳しいのであれば、シリアに帰ったほうがよっぽど「マシ」なのではないか。

 レバノン政府はシリア難民をシリア本国へ積極的に返すために、2018年に帰還のための登録所を設置した。しかし帰還を望む人は少ない。今回私が取材した9家族の中でも1家族もいなかった。

 では何が彼らのシリアへの帰還を阻むのか。なぜ彼らはシリアへ帰れないのか。

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