世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年3月18日

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 米国とイランは、核合意を巡り、それぞれ相手がまず行動すべきであると主張して膠着状態にあるが、膠着状態は緩和に向かう兆候も見られる。イランはIAEAによる抜き打ち検査を拒否し、査察の回数は削減されたものの、核合意で認められたIAEAの専門家による定期査察は今後3か月間継続されることとなった。したがって、監視が完全にできなくなる状態は避けられたことになる。他方、米国はトランプの「最大限の圧力」を緩和し始めた。国連でのイランの外交官の旅行制限を緩和し、合意の他の当事国、ドイツ、フランス、英国、中国、ロシアと一緒にイランの政府当事者と会合することを提案した。

AlessandroPhoto / iStock / Getty Images Plus

 フィナンシャル・タイムズ紙の2月25日付け社説‘Joe Biden has a narrow window to save Iran deal’は、バイデン政権が制裁を解除することなくイランの要望を受け入れる一つの選択肢として、日本や韓国のようなイランの原油の輸入国が、保持する何十億ドルという石油代金へのイランのアクセスを認めることを提案している。社説は、「イランは、その基金を食料や新型コロナウイルスのワクチンを含む医薬品といった制裁の対象でない『人道的な』物資の輸入に使える」と言うが、実現性はよく分からない。社説は、米国はイランが過剰な濃縮ウランや重水の国外持ち出しを差し止めている制裁を解除すべきである、とも提案する。しかし、そもそもこの制裁の解除を止めたのはトランプの理不尽な決定であったので、その制裁の解除は前進ではなく後退を元に戻すだけに過ぎず、イランが核合意に復帰するインセンティブにはならない。

 イラン側は核活動を拡大するという挑発的な行動は止めるべきである。しかし、イランが20%濃縮を再開したり、新しい遠心分離機を開発したりしているのは、米国が制裁を解除しないためであるとしており、イランが一方的に核活動の拡大を止めることはないだろう。

 イランの核合意を取り巻く状況は厳しい。2020年1月イラン革命防衛隊ゴドス部隊のソレイマニ司令官が米軍によって暗殺され、これに対する報復として今年1月イランによるイラク中西部の米国のアサド空軍基地などに対する攻撃が行われ、さらにこの攻撃に対する報復として2月26日、米国によるシリア東部のイラン支援民兵組織の空爆が行われた。このような状況の下で核合意への復帰に努めるのは容易ではない。

 なお、イラン核合意の欠陥はイランのミサイル計画とイランの地域での活動が含まれていないことであることが夙に指摘されている。これはこの二つの難問を取り込もうとするとどれほど時間がかかるか分からないので、取り敢えずイランの核活動の制約のみが取り上げられた経緯がある。上記社説は「核合意ができれば二つの難問にとりかかる努力を始める場を作ることができる」と言っているが、ことはそれほど簡単なものではない。イランのミサイル計画一つをとっても、イランはいまやドローンと精密兵器を攻撃の中心としている。2019年9月のイランによるサウジアラムコのアブカイク製油施設攻撃も、ドローンと精密兵器によるものであった。このように今やイランが得意としている兵器の規制の話にイランが乗ってくるとは考えにくい。

  
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