2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年3月19日

 中国全人代において、本年2月1日から「海警法」(中華人民共和国海警法)が施行されることとなった。この法律によって、海警局巡視船に対し、外国船取り締まりに際しての武器使用権限が付与されることとなった。端的に言って、「海警」とは海上保安庁のような警察機構ではなく、軍隊の一部であることが明示的に決定されたことになる。

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 日本政府としては、今後は相手が軍事組織であるとの前提で対応しなければ、日本の海上保安庁の保安官が危険にさらされることとなろう。

 この件に関し、2月20日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、同紙のDemetri Sevastopulo米中特派員、Kathrin Hille中華圏特派員及びRobin Harding東京支局長3名の連名で、中国海警法の施行について、米国務省の懸念表明をはじめ、米国や周辺国の当局者、専門家の反応を紹介する解説記事を掲載している。

 フィナンシャル・タイムズ紙の記事は、この海警法制定・実施の意味を解説するものであり、とくに今後日本としては、尖閣周辺海域での外国船舶取り締まりの際、中国側は「海警」という名前の疑似軍隊が関与していることを十分に心得て行動しなければならない、と警鐘を鳴らしている。

 国連海洋法によれば、すべての国の船舶は、他国の領海において「無害通航」の権利を有している。領海は国家領域の一部であり、沿岸国の主権が及ぶが、船舶の通航が「無害」である限りにおいて、沿岸国の許可なく、その領海を通航することが出来る。しかし、今回の疑似軍隊の船舶についてはもはや「無害通航」の権利を有することはあり得ない。今回の「海警法」の実施により、尖閣諸島周辺での取り締まりにあたっては、先方が軍隊組織であることを十分に覚悟して対応する必要が出てきたことになる。

 今日の中国の制定・実施する国内法は、香港の民主化運動を抑圧する「国家安全維持法」にせよ、今回の「海警法」にせよ、国際法に違反したものだ。中国はしばしば「三権分立」が行われた上での法律制定である、というが、実態としては「立法、司法、行政」を超えて、その上に中国共産党が統治する形となっている。

 日本政府にとっての喫緊の課題は、日本固有の領土である尖閣諸島(沖縄県石垣市)の実効支配を内外にアピールするため、現地調査を行うなどの行動をとる必要があることである。相手を刺激しないために特段の措置や行動をとらないという時期はすでに終了したように思われる。

 また、同時に、尖閣諸島を日米安保条約第5条の適用範囲であることを明言しているバイデン政権との間で、尖閣諸島周辺海域で共同の軍事訓練を行ったりする必要もあろう。

 振り返ってみれば、日本は長年の調査後、1895年1月、無人島であった尖閣諸島を日本の領土に編入し標杭を立てた。中国自身がこれに異議を唱えたのは、この七十数年後のことである。戦前の一時期には、日本人が定住し、鰹節製造工場が建てられていたことがあり、いずれにせよ今日まで一貫して、尖閣諸島は日本の領土である南西諸島の一部を構成してきた。なお、言うまでもなく、尖閣をめぐる「棚上げ論」については、日本は中国との間で、かつて一度もこのような「棚上げ論」に合意したことはない。それは、中国側からの一方的なフェイクニュースであり、プロパガンダにすぎない。

 「海警法」の中国近隣諸国 ―― フィリピン、ベトナム、インドネシア、オーストラリアなどの諸国 ―― への影響については、これら国々においても「海警法」への強い反発が生まれていることは言うまでもない。

  
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