これは「本物」かもしれない。阪神タイガースのドラフト1位ルーキー・佐藤輝明内野手(近大)が14日の巨人戦(甲子園)で左翼ポール際へ12球団単独トップのオープン戦4号となるソロ本塁打を放った。一度はファウル判定となったが、阪神側からのリクエストを受けて審判団が協議の末に判定は覆った。
場面は4回二死。マウンドの相手投手・髙橋優貴の143キロ直球を完璧にとらえ、左翼スタンドの逆方向へ運んだ。この日の一発も含めオープン戦で放った4本塁打はすべて逆方向。この日は甲子園特有の〝浜風〟がいつもとは逆にレフトからライト方向へ吹いていたが、左打者の佐藤は逆らうようにものともせず逆方向の左翼席へ叩き込んだ。
見た目がすべてではないが、佐藤はバッティングのフォロースルーも芸術的で新人離れしている。とにかく無駄がほぼなく、一言で表せば「綺麗」。だからミスショットさえしなければ十分な飛距離が出ることも証明された。いや、多少のミスショットでも手首をキッチリと理想的に返しながら大きなフォロースルーがとれているので、長打に持っていくことができてしまいそうなバッティングフォームである。
ある阪神のOBが佐藤について「まるでこの世界で、もう何年もメシを食っているかのようなベテラン選手の佇まいがある」と舌を巻き、こう続けている。
「実は当初、佐藤に関しては私を含め、多くの評論家が『実戦になったら苦労するだろう』と予想していた。近年の阪神は前評判がいい新人ほどフタを開ければ大コケしますからね。ところが…ですよ。彼は精神力というか、ハートの強さがとんでもないレベルで抜きん出ていることが徐々に分かってきた。
恥ずかしい話、我々が見誤っていたのです。普通ならプロに入って多少は委縮したり、遠慮気味になったりするものですが、そういうものが彼にはいい意味でない。もともと対応力も兼ね備わっているから、まだプロ1年目にもかかわらずキャンプからオープン戦にかけて、いろいろと試せているのです。
『浜風がある本拠地の甲子園で長打を打つため』とあえて意識して逆方向へ打つことを初めて参加したプロのキャンプ練習から心がけて取り組むなんて、並の新人にはまずできません。あんまりホメ過ぎるのも後々良くないとは思うので『今のところ』と注釈をつけておきますが、私が今まで見た阪神のルーキーの中ではトップクラスに匹敵する野手です」
14日の巨人戦、三塁側ベンチのジャイアンツ陣営も怪物ルーキーの一発にはさすがに度肝を抜かれた様子だった。リクエストの協議中、巨人の原辰徳監督は苦笑いと驚きの表情をまじえつつ、何度も左翼ポール際に目を配りながら周りのコーチ陣とお互いの顔を見合わせていた。
結果的に、この虎のルーキーの一発が決勝点となってオープン戦とはいえ巨人は阪神に0―1で敗戦。試合後の原監督はいつもならば相手のチームの選手について多くを語ろうとしないが、この日ばかりはメディアから佐藤の印象を問われると「常に堂々とね。いいプレースタイルというか、手ごわい相手になるだろうね」と評していた。