2023年2月2日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年10月6日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院 教授

慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社に入社。計10年の北京特派員を経て2020年から現職。ボーン・上田記念国際記者賞受賞。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(社会科学)。著書に『天安門ファイル』(中央公論新社)、『マオとミカド』(白水社)など多数。

*前篇はこちら

官邸に伝達された「対日3条件」

 中国政府は「幻想を捨て深く反省し、実際の行動で誤った決定を正せ」(張志軍外交部常務副部長)と繰り返している。表向きは国有化撤回を求めながら、野田政権が国有化を取り消すことはないと熟知している。中国の真の狙いは次の3点だろう。

(1)「日中間に領土問題は存在しない」と言い続ける日本政府に領土問題(争い)の存在を認めさせる。
(2)1972年の国交正常化時に田中角栄首相と周恩来首相の間で共有したと主張している尖閣諸島「棚上げ論」を確認させる。
(3)日本側との対話を通じて尖閣諸島の現状維持を推進する。

 この際、筆者が前回本コラムで詳述した「対日3条件」がカギとなる。中国政府は、日本側に尖閣諸島をめぐり(1)上陸させない(2)(建造物を造るなど)開発しない(3)(資源・海洋)調査を行わない――を挙げ、3条件を守るよう求めた。実は、この3条件は、中国外交部幹部から官邸に伝達されている。中国政府が官邸に伝えたメッセージは、石原慎太郎東京都知事が尖閣諸島を購入すれば現状維持は困難になり、日中関係は最悪の状態に陥ると警告していた。

 ある共産党の対日当局者も野田政権の国有化決定前、「国有化してもいい。しかしその際は中国側と十分に話し合ってほしい」と明かした。

現状維持の話し合いには応じず

 日本政府の本音も「現状維持」にあるのは間違いないが、「中国と条件闘争するつもりはない」(日本外交筋)と一貫して突っぱねた。日本政府が繰り返す尖閣諸島の「平穏かつ安定的な維持管理」の具体的中身についても日本政府が決めることであり、3条件などあくまで中国側の独自の論理だとの立場を崩さなかった。

 しかし「日本政府が国有化した際に、日本側が中国側と現状維持について何か取り決めていれば、中国がこんなに強硬になることはなかった」と複数の日中関係筋は解説した。

 日本側にもさまざまなルートを通じて「石原が買うより国有化のほうがいい」という情報が中国側から入っていた。しかし日本側が領土問題や棚上げ論も認めず、現状維持に関する中国側の要求にも応じない中、中国共産党・政府も振り上げた拳を下ろすわけにはいかないのである。


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