元グーグルCEOのエリック・シュミット氏は、3月17日、インタビューに答えて、今後の力関係を決めるのは空母や核兵器ではなく、プラットフォーム、つまり高性能半導体を活用したAI分野での優位性である、と述べた。これは、非常に重要な指摘である。軍・民ハードウェアから、それを動かす技術、情報収集・分析・管理能力、携帯電話、アプリからあらゆる日常品まで製造・運用ばかりでなく、そうした技術を使って選挙介入をはじめ他国の政治や社会に多大な影響を及ぼせることになる。軍事・核兵器に依存するよりはるかに自国は安全で効率も良く、「敵」はいつ、だれに攻撃されたかも分からない可能性も高い。米中競争でアメリカがAI分野で後塵を拝することがいかに危険かは明らかである。
「チップ」不足が話題になり、単純に製造割合を見るとアメリカでも中国でもかなりの数が製造されているが、信頼できる高性能半導体チップとなると台湾のTSMCと韓国のサムスンに頼らざるをえない状況となっている。しかし両国とも地理的に中国に近く、安全保障上狙われやすい立場にある。それだけに米国内での開発製造が急がれている。
5Gでのアメリカの遅れは、競争原理に頼りすぎる弱点であると同時に、インフラ整備の遅れが大きな問題となっている。バイデン政権が新型コロナ救済法の次にすすめようとしているのが、インフラ対策だが、背景にはこうした要因もある。
ブリンケン国務長官とサリバン国家安全保障担当補佐官が強く後押しし、「ハイテク民主主義国同盟」が国務省を中心に検討されている。技術開発や製造面での協力だけでなく、ハイテク技術仕様を管理するルールや規範を策定することで安全で開かれた自由主義圏主導のハイテク環境を確立する狙いもある。
バイデン政権は、5Gではファーウェイに対抗するためにノキアやサムスンなど他国企業との国境を越えた協力体制やO-RAN(オープン無線アクセスネットワーク)など新技術採用も検討しているとされる。
3月の日米「2+2」(外交・防衛閣僚会談)では、アメリカが同盟国日本に役割分担を求める姿勢が明らかになった。おそらくAI分野でも、日本に対する期待と同時に貢献を求められ、また日本が米中間での選択を迫られる場面も出てくるだろう。
アメリカはこれまでとは違う本格的、総合的な米中競争を覚悟し、勝つためのプランを練り実施しようとしている。同盟国がどこまで何を貢献できるかが厳しく問われることも意味している。
4月16日に予定されているバイデン政権初の日米首脳会談では、菅総理との間で、様々な議題が話し合われるだろう。その一環として、技術大国の日本に、何らかの期待が寄せられるだろう。日本も、今後、技術開発への投資、官民協力のさらなる推進、情報セキュリティの確立等、将来を見据えた新たな対策が求められよう。
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