2024年12月9日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年5月19日

 バイデン大統領は大統領選期間中から気候変動対策を、自らの政権の政策の柱と位置付けてきた。主要国・地域が参加する地球温暖化対策に関する首脳会議(気候サミット)を、政権発足後100日以内に開催するという公約通り、4月22-23日に開催した。バイデンは、民主党が重要視する環境アジェンダの推進、国際社会における米国の指導力回復を念頭に、2030年の二酸化炭素排出量を2005年比で50-52%削減という野心的な10か年計画を世界に示した。バイデンがこの目標設定を産業界、共和党、専門家と話し合った形跡はない。

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 バイデンの新しい排出削減目標には、国内外で多くの課題がある。国内では、先ず目標の実現性は極めて不透明だ。バイデンの脱炭素化政策は、電力部門の排出を2035年までにゼロにするクリーンエネルギー基準などから構成される「部門別の排出規制措置」と、「インフラ投資」が柱だ。しかし、上院は両党が各50議席を確保しており、民主党内にも左派から穏健派まで幅広い立場の議員がいる。石炭産出州のウェストバージニア州選出のマンチン上院議員などを筆頭に、民主党議員が一人でも造反すれば、法案の通過は覚束なくなる状況だ。

 さらに、バイデンの目標設定に全くと言ってよいほど関与しなかった、製造業などを中心にした産業界の巻き返しが激しくなることは、必至である。また、目標実現のために産業転換を図るため雇用が失われる地域には、「インフラ投資」などを通じた雇用創出を実現し、環境問題からの格差を是正する「環境正義」や、産業転換の過程で取り残される人々を出さない「公正な移行」の実現が必要になるが、これも容易ではない。

 国際的には、バイデンに呼応して日本を含めて先進国がこれまで以上に踏み込んだ新たな削減目標を表明したが、最大のCO2排出国の中国、第3位の排出国のインド、第4位のロシアはバイデンの呼びかけた新しい削減目標の設定には応じなかった。中露印は環境問題の深刻性は認識しながらも、経済成長への配慮や排出削減への支援などが得られない中で、公約による制約を回避し自国の国益を最優先した。今年11月に開催される第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を睨み、主要国の利害を調整した国際的な取り組みの難しさが浮き彫りになった。また、ケリー大統領特使(気候変動対策)が政権発足当日から中国に対して環境外交を働きかけてきたことを考慮すると、バイデンが謳った米国の国際的指導力の回復も容易ではないという印象である。

 日本にとっては2030年までの削減目標を2013年度比で従来の26%から46%に引き上げ、環境外交の再構築を迫られた形だ。さらに、国内の石炭火力の継続、海外の石炭火力建設融資、原子力への国民的信頼の欠如、途上国支援なども加えて考慮すると、バイデン政権が進める積極的な環境外交との調和は極めて難しい状況だ。日本の排出量は世界全体の約3%であり、日米関係と環境配慮は強く意識しながらも、大量排出量国の動きを睨んだしたたかな国際連携が求められる。

  
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