アンダース・アスルンド(大西洋評議会シニアフェロー)が、4月22日付のProject Syndicateに、「ロシアの下を向く経済」との論説を寄せ、ロシア経済がいかに良くないかを解説している。
ロシア経済は、2014年以来、実質成長ゼロである。プーチンは、経済停滞の責任を、「外部の力」、すなわち世界的な石油価格などに負わせているが、不健全な経済政策と西側の制裁は彼自身以外の誰の過ちでもない。
2008年ー2013年と2014年ー2019年では、1年の外国直接投資の平均流入はGDPの3.1%からGDP の1.4%に減少した。(2014年のロシアによるクリミア併合に対する西側の制裁も影響しているのだろう。)
4月21日、プーチンは年次演説で「マクロ経済の安定とインフレーションの封じ込めは確実に達成される」と約束した。しかし、マクロ経済の安定はそれ自身目的ではなく、継続的な成長のための手段であって、経済政策の目的は、市民の福祉を最大化することである。しかしプーチンの明示的目的は、彼の独裁的権力を最大化することである。
米国の制裁によるコストは見た目より大きい。ロシアがドルでの取引ができないことは、その投資機会を厳しく制約し、その成長を阻害する。プーチンとその極端な緊縮政策のおかげで、ロシアの生活水準は最近の7年間で11%低下した。
上記アスルンドの論説は、ロシア経済の苦境を数字の面で裏付けるとともに、プーチンが自らの行動により招いた西側からの制裁、保守的な経済政策、腐敗などにその原因を求めている。的を射た論説であるが、石油価格の低迷も大きい影響を与えている。
ロシアのGDPは、IMF統計で今は韓国以下で、世界第11位である。日本の3分の1にもならない。プーチンの治政下、ロシアは衰退してきたと何度も指摘してきたが、そのことは今や誰の目にも明らかになっている。
石油価格は脱炭素化の中、今後は低くなっていくことが確実である。石油依存経済からの脱却はロシアでも言われているが、うまくいっていない。国際政治の用語で「資源の呪い」という言葉があるが、資源国は資源頼りになり、製造業を発展させられないことを言うが、ロシアはその典型である。
さらに、プーチンのマクロ経済の安定とインフレ封じ込めへのこだわりがある。これが健全財政政策につながっている。今世界では、金融の緩和、財政出動による景気刺激策が主流であるが、プーチンは保守的でそういう政策を採用していない。そもそもプーチンはエリツィンの後継者としてあらわれたが、エリツィン時代はマクロ経済は安定せず、インフレはひどかった。プーチンは石油価格の上昇にも支えられ、エリツィン時代の混乱を抑え、安定の時代を作り出し、それ故に国民の支持も得た。彼がマクロ経済の安定とインフレ封じ込めを言うのはその成功体験による。
しかし時代は変わるのであって、時代の要請には気を配り、変えるべきものは変えなければならないが、それが出来ていない気がする。それに、対西側対決路線は経済的には制裁などの不利をもたらしている。
プーチンは2036年まで政権の座にとどまれることになっているが、時代に合わない指導者になっており、とても2036年まで務められるとは思えない。そうすることはロシアにとってよい結果をもたらさないと思われる。
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