2024年5月2日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月8日

Oleksii Liskonih / iStock / Getty Images Plus

 6月16日、ジュネーブで米ロ首脳会談が行われた。会談では、バイデンとプーチンが4時間も話し合い、現下の問題について双方が相手の考え方をよりよく理解したと思われるので、これからの米ロ関係の安定には多少の効果があるだろう。しかし、ウクライナ問題にせよ、他の問題にせよ、双方がその立場を変えた兆候はなく、これまでの基本的な対立は引き続くことになろう。華々しい成果はなかった首脳会談であった。

 今回の米ロ首脳会談については多くの論説が出ているが、エコノミスト誌6月19日号の社説‘Joe Biden’s summit with Vladimir Putin yielded only modest gains(ジョー・バイデンのヴラジーミル・プーチンとの首脳会談は控えめな結果を出しただけだった)’が常識的でバランスが取れていると思われる。社説は、首脳会談に臨んだ両者の立場につき、次のように描写する。

「バイデンはロシアに 強硬に見えることを望んだが、制約されていた。彼は気候変動、イランに核を持たせないこと、シリアでの戦争の終結、新しい軍備管理条約の形成、多分最も重要なウクライナ紛争(米国を巻き込みかねない)などでロシアの助力を必要とした。」

「プーチンも制約下にあった。彼は国内で反対派に直面し、経済制裁の緩和から得るものがあった。ロシアは制裁に耐えるために「砦のような経済」にしたが、これは普通のロシア人に生活苦をもたらした。バイデンは、プーチンの政治的な生き残りのために必要な弾圧が続き、ウクライナからの撤退がない中では、プーチンを助けられない。」

 こうした状況を受け、対立の激化も大きな成果もない首脳会談になったということだろう。なお、首脳会談で、ナヴァルヌイ氏の件(同氏は収監され健康状態が悪化している他、同氏の率いる組織がロシア当局より過激派認定された)について、バイデンがプーチンにはっきりとした警告をしたことは評価できる。ただ、プーチンがどう出るかはわからない。
 
 バイデンが欧州訪問に出かける前に、米国の論説では、中国が大問題なので、ロシアとの関係を改善して対中対抗により多くの勢力を注ぐべきである、との意見が出ていた。冷戦時にニクソンが対ソ連に集中すべく対中和解路線をとったようなことをバイデンが対ロ関係で試みることがあるのかどうか注目されたが、そういうことはなかったように思われる。

 中ロは難しい関係であり、中ロがそれぞれの事情で仲違いした時にそれを利用し、中ロ準同盟関係にくさびを打ち込むことは考えてよいが、そうではない時に中ロ離間を画策することは成果も出ないし、中ロ双方の警戒心を刺激するだけの結果に終わるだろう。中ロの指導者は、プーチンも習近平も猜疑心が強く、米国の画策に容易にのせられることはないし、ロシアは経済関係などの諸事情から中国のジュニア・パートナーになることを敢えて選択していると見て間違いはない。
 
 なお、この時期に米ロ首脳会談が行われることになったのは、ロシアがウクライナ東部国境に大軍を派遣し、ウクライナへの侵攻もありうる状況の中でバイデンが会談を申し入れ、プーチンが軍を国境から引いたという経緯があった。 

  
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