中東を読み解く

2021年7月21日

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支配階級の“金庫番”か

 サラメ総裁は一連の疑惑を否定し、財産については総裁に就任する前に勤めていたメリルリンチ時代に作ったものと主張、レバノンの金融を安定させてきたのは自分の力だとして、辞任する意思のないことを明らかにしている。レバノン支援に乗り出している旧宗主国のフランスや国際通貨基金(IMF)、米国などは援助の条件として、腐敗を一掃する政治改革に加え、第三国による会計監査を要求しているが、サラメ総裁は拒絶している。

 メリルリンチにいたサラメ氏を元々、総裁に任命したのはハリリ前首相の父親のラフィーク・ハリリ元首相だ。同元首相は2005年に暗殺されたが、ハリリ一族はスンニ派のトップに君臨する名門で、息子のサード・ハリリ氏が父親の後を継いで政治家になった。ハリリ一族の資産管理はメリルリンチのサラメ氏が担っていたという。サード・ハリリ氏はこれまで首相を2回務めている。

 マロン派キリスト教徒のサラメ氏は総裁に就任後、産業のないレバノンの金融を安定させ、一時は大統領候補にまで取り沙汰された。高金利で外国から資金を集める手法だったが、その実態は利払いと新規顧客の獲得による自転車操業だった。一方で有力者の子弟らを中央銀行に入行させたり、有力政治家や企業家らには優遇ローンを提供したりした。

 ベイルート筋は「サラメはレバノンの支配階級のための“金庫番”であり、地位を利用して自らも私腹を肥やした。彼らは持ちつ持たれつの関係を続けてきた。国民が食料や燃料を手に入れようと躍起になっている時、国を食いものにしている」と厳しく批判している。フランスやスイス当局のサラメ総裁に対する捜査が進めば、支配階級にも火の粉が降りかかるのは必定。サラメ総裁の去就と捜査の行方にレバノンの支配階級は戦々恐々だ。

  
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