7月16日、バイデン政権は香港について「ビジネス注意情報」を発出した。これは9ページの長文で、香港についてこの種の注意情報が出されるのは初めてだという。国家安全法を含む香港の法制の変化に伴い、香港でビジネスを行う米国企業は「世評や財務上の、また或る場合には法的なリスク」に警戒すべきことを警告する趣旨のものである。
この注意情報が指摘するリスクは、概括的には次の4つである。
(1)国家安全法に直接巻き込まれるリスク。同法の下で一人の米国人を含む外国国民も逮捕されている。法人格の有無にかかわらず、同法に違反する企業や組織は、そのライセンスやビジネス申請が取り消され得る。
(2)データの秘匿性が保全されないリスク。これは国家安全法によって当局に「国家安全保障」を理由にデータの開示を要求する権限が与えられていることなどを指している。
(3)自由な報道・情報へのアクセスが制限されるリスク。これも国家安全法の制定以来顕著な現象で、蘋果日報の弾圧がその一例。
(4)米国の制裁に従うことにより、反外国制裁法の発動を含め、中国の報復に遭遇するリスク(反外国制裁法は本土、香港、マカオを区別していない)。報復措置にはビザ発給拒否、入国拒否、資産凍結、取引き禁止などが含まれる。
以上に加えて、米国の制裁の対象とされている個人と企業と不用意に関係を持つことにより民事および刑事の処罰が及び得るリスクを指摘している。
7月16日付のウォールストリート・ジャーナル紙社説‘Biden’s Warning on Hong Kong’は、バイデン政権がこの注意情報を発出したことを適切な行動と評価している。同社説は、明言しているわけではないが、香港はもはやビジネスを安心して行える環境にはなく、米国企業がそれを悟って香港を脱出すれば、香港は金融の国際センターの地位を失うかも知れない、そういう形で中国は香港の自治を破壊した代償を払うことになるかも知れない、と言っているように読める。
しかし、香港の米国商業会議所は、ビジネス環境はより複雑で厳しくなっているが、その間を縫ってビジネスの機会を捉えることについて会員企業を支援して行きたいと述べている。実際、民主派活動家の弾圧や選挙制度形骸化の抑圧にもかかわらず、香港の地位は揺らぐどころか、香港は活気を帯びているとされている。香港の株式市場はIPOの数で4位である。香港の外国銀行は人員増強に乗り出しており中国本土での新たな投資の機会を狙っている。香港には中国本土と諸外国から資金が流入しているという。
そうなのかも知れない。しかし、だからと言って、「一国二制度」を一方的に破壊され、植民地化された状況を放置して良いことにはならない。今回、制裁対象に新たに7人の中国当局者が追加されたが、ビジネス注意情報は、今後も制裁の拡大があり得ること、それに伴い香港情勢が更に悪化し得ることの警告かも知れない。そもそも、ここまでくれば、香港を中国と別個に扱い、香港が金融センターとしての地位を維持することに手を貸す理由はないと言うべきであろう。
縮小されたとは言え、米国など諸外国は未だ香港に対する優遇措置を残しているのではないかと思われるが、その撤廃を考えざるを得ないこととなろう。
そういう状況になるとすれば、大切なことは、香港を脱出することを希望する人達の移住を受け入れることである。英国では1月31日に香港の英国海外市民旅券(BNO passport)を持つ人達に対する特別ビザの制度が導入されたが、3月までに3万4300件の申請があり、うち5600件のビザが付与された由である。去る4月28日、香港の立法会で入境条例が改正され(8月1日に効力を生ずる)、潜在的には当局が出国を禁ずることが出来るようになったというから、懸念されるところではある。
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