中国は米軍の存在がアフガニスタンにもたらしていた一定の治安を利用し、着々と投資機会を探り、タリバンとの関係を築いてきた。すでに石油や天然ガス開発に投資してきたが、米軍撤退後は経済支援の代償にリチウムやコバルトなど産業資源の開拓権利を狙っている。
また、アフガニスタンは、中国が主導する「一帯一路構想(BRI)」で、中央アジアから中東、欧州を結ぶ要所である。BRI最大のプロジェクトである中国・パキスタン経済回路とカブールをつなぐ道路建設計画もあり、資源開発やインフラ整備が実現すれば中国の覇権の動脈となるBRIは大きく前進する。
中国が米軍撤退の恩恵をうけるかは、ウイグル分離派組織である東トルキスタン・イスラム運動が活性化するか、そしてアフガニスタンやパキスタン内の治安にかかっているといえる。
パキスタンの動きにも注視を
アフガニスタンと南の国境を接するのがパキスタンである。2011年にウサマビン・ラディンは、パキスタンに隠れていたところを米軍の特殊部隊によって殺害された。かつて米国がテロ対策を「AFPAK政策」と呼び、アフガニスタンとパキスタンを重視したのは、両国がテロの温床にならないように安定した国家になってほしいとの願望からだった。
実は、そのパキスタンは、アフガニスタン以上に将来の不安を抱えていると見ることも出来る。Chayesらアフガニスタンの専門家によれば、タリバンはそもそもパキスタンの軍と軍統合情報局(ISI)が作ったものである。
ソ連のアフガニスタン撤退後、西側からの豊富な武器を持った部族間の衝突が続きアフガニスタンは内戦状態だった。パキスタンはパシュトゥンの中でもイスラム原理主義者を支援し、アフガニスタンの内戦、特に国境沿いを鎮静化することで、パキスタン軍がカシミールでのインドとの戦いに専念することが可能になると計算した。
パキスタン政府や軍、ISIはこれまでアフガニスタン・タリバンとパキスタン・タリバンを分けるような発言をしてきたが、両者は同じコインの表裏であるとされ、米国のアフガニスタン撤退でタリバンがアフガニスタンで勢力を得れば、パキスタン・タリバンも勢いを復活させ、再び北西部を中心にパキスタン情勢をさらに不安定にする危険がある。
米国がアフガニスタンから撤退した後、タリバンやイスラム組織が再びアメリカ国内でテロを起こす可能性はゼロとは言えない。しかし、アフガニスタンやイラクでの「永遠の戦争」を忘れたく、新型コロナウイルスで精神的・経済的に疲弊し、分断が改善されないアメリカでは、首都ワシントン以外では、撤退騒動もアフガニスタンも比較的早く忘れられるかもしれない。それは、最近のバイデン政権への支持率低下の理由が、アフガニスタン撤退以上に、コロナや経済政策に向けられている点からもわかる。