世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年9月10日

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 チャタムハウス(王立国際問題研究所)所長のロビン・ニブリットが、米国のアフガニスタンの挫折によって米国による安全保障のコミットメントの信頼性が揺らいでいるという議論は的外れであるとの論説を、8月19日付のForeign Affairs(電子版)に寄稿している。

 この論説が書かれた理由は論説内でも説明されているが、カブールの劇的な陥落と避けられたはずの混乱という米国の挫折を見て、バイデン政権であれ何であれ、一体米国の政権による安全保障のコミットメ ントは信頼出来るのかという問題が欧州で提起されたことにある。

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 例えば、フィナンシャル・タイムズ紙のギデオン・ラックマンは、米国の失態は「米国は衰退しつつある、米国による安全の保証は信頼出来ない」という中国の二つの主要なメッセージに正しく符号すると論じている。

 英国の元外交官(キャメロン首相の安全保障担当補佐官)ピーター・リケッツは、「NATOは米国の一方的な決定に完全に出し抜かれた」「アフガン作戦は何時かは終わらねばならなかったが、……終結の方法は屈辱的でNATOに害をなすものであった」と述べ、「9.11」当時のNATO事務総長ジョージ・ロバートソンは、「入るのも出るのも一緒(in together,  out together)というNATOの原則がトランプおよびバイデンの双方に捨てられたようである」と述べている。 

 ニブリットの論説は苛立つ欧州側に頭を冷やすように促すとともに、バイデン政権がアフガニスタンの失態に懲りて及び腰になることを怖れてか、引き続き欧州と共に戦略目標を追及するよう説いている。一方、ニブリットは、バイデン政権を批判することも躊躇していない。欧州の当局者が適切に米国から協議を受けたとは思っていないことを指摘している。 

 「9.11」の事態にNATOは集団防衛を規定するNATO条約5条を発動して米国を支持したのであるから、撤退にあたってNATOと協議すべきはけだし当然である。バイデン政権は協議を遂げたと述べているが、欧州としては既成事実(fait accompli)の押し付けと感じたに違いない。英国のベン・ウォレス国防相が米国抜きで有志の欧州諸国と残留することを模索したが、米国抜きでは安全を確保し得ず、涙を呑んだという一件はこの辺りの事情を物語っている。 

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