2024年12月9日(月)

田部康喜のTV読本

2021年10月16日

 「日本沈没―希望のひと―」(TBS日曜劇場)は、クライシスが列島を襲うたびに蘇る、小松左京さん原作のドラマ化である。与党内の基盤が弱い、東山栄一首相(仲村トオル)のもとで、若手官僚たちによる「日本未来会議推進会議(未来会議)」が、日本沈没というクライシスと闘っていくのだろう。

 その会議の中心人物である、環境省の天海啓示役の小栗旬をはじめ、議長を務める経済産業省の常盤紘一役の松山ケンイチ、外務省の相原美鈴役の中村アン…豪華俳優陣が小松さんの名作に挑む。

(Philip Openshaw/gettyimages)

 『日本沈没 決定版』(文春E-BOOKS)において、小松さんの次男で「小松左京ライブラリ」を主宰する実盛さんが書き下ろした「解説」によると、『日本沈没』は1973年に発表され、総販売部数460万部を記録している。

 中東諸国による70年代の原油価格の引き上げによって、日本は高度経済成長から「スタグフレーション」(物価上昇と不況の同時進行)に陥った。同作発刊後に映画化もされ、日本経済が金融危機後に低迷を続けていた2006年、再び映画化され、当時の興行収入としては異例の53億円のヒットとなった。

 そして、今回のドラマである。この背景はいうまでもない。デフレからかろうじて脱したとはいえ、年率2%の物価上昇に成功していない。超低金利による「流動性の罠(わな)」にはまっている。新型コロナウイルスは、国民を不安に陥れている。

 小松作品は、プレートテクトニクス理論など、当時としては最新の科学的な知見を最大限に盛り込んでいる。第1回(10月10日)の予告のなかで、ドラマの大きな展開の方向性をあらかじめ示しておく、という異例の手法を取り入れている。日本列島は沈没して、国民は海外に移住する事態に追い込まれていくのである。

 サブタイトルの「希望のひと」は、いったい誰なのだろうか。

エネルギー政策と地球環境の狭間で

 物語は、2023年10月からはじまる。地球温暖化に関する国際会議で、東山首相(仲村)は、日本が海底の地中深くから、セルスティックという、脱炭素燃料を発見、パイプで地上に吸い上げる形で貢献していることを高らかに宣言する。「COMS」計画と名づけられている。

 東京大学教授時代に研究費の不正利用で、大学を追われた異端の地震学者である、田所雄介(香川照之)が、この「COMS」が引き金になって、「関東が沈没する」という説を唱え始める。

 田所の予言はこうだ。

 「伊豆半島沖にある日之島が、まず沈没する。これが予兆となって、関東が沈没していく」


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