書店が人をつなぐ架け橋に
大学入学後、改革開放により多くの本が読めるようになったが、青少年時代に知的欲求を満たせなかったことが最も心残りで、それが書店を開く夢につながったのだ。
そして、民主運動の精神を絶やさないために「自由な表現、自由な言葉は自由な社会への第一歩だ」という理念の下、「万聖書園(ワンシェンシュウアン)」を開いた。
現在は訪れる読書人から「思索の聖人」と呼ばれている。劉蘇里が常に取次と直接交渉し、人文社会系を中心に高水準かつ最先端の学術書を書棚に並べるようにプロモートしているからである。そのため第一線で活躍する学者や知識人が数多く訪れる。書籍はもちろん、著者にも出会える機会が多いことで評判は高い。彼は著者、編集者、出版社、読者を緊密につなぐ架け橋となったのだ。
2001年に店内に開業したカフェ「Thinker(醒客)」では読書サロンなどを開催し、知的好奇心を刺激する議論を行っている。彼は約2000人の学者や知識人たちと直接コンタクトがとれ、書店とカフェを有機的に組み合わせた知的な情報空間を創り出している。
読者はそこで知的な探究や自分探しの旅をし、自分のアイデンティティーを形成していく。本の選定は劉蘇里や書店員が行い、特定の傾向に偏らないようにしている。自由、憲政、民主をテーマにした書籍もあれば習近平の著作もある。また、日本の近代国家形成に関してもいくつかの学説を読むことができる。
彼は異なる見解を読み比べ、読者自らが考えることが大切であり、自由とは「普遍的価値」ではあるが、それを押しつけるのは「矛盾」だと考えている。自由な思考は、自由な読書によって身につく。こうした意味で、彼は「万聖書園」や「Thinker」が〝自由への道〟になるよう努めている。これは劉暁波の「社会を変えて、政権を変える」という考えにも通じているのだ。
劉蘇里は天安門事件の犠牲者となった5人の教え子を思うと胸が痛む。現在も当局に厳しく禁じられているが、いつか呉仁華が事件の真相を詳論した『六四事件全程実録』(TW允晨文化)などを、劉暁波の著作とともに並べたいと願っている。
万聖書園は中国の社会心理の「動脈」を示すバロメーターの役割も果たしており、それは中国社会の深層まで見通せる「窓」と言うこともできる。そこにはデモーニッシュ(悪魔的)なものさえあり、劉蘇里は民衆の間でナショナリズムとポピュリズムが強まる現状を憂慮している。
普遍的価値に即して思考する知識人とは違い、飛躍的な経済成長とグレート・ファイアウォール(中国のインターネット上に存在する検閲システム)の下で生まれ育った世代は「大国」意識に染まり、国際社会への向き合い方が分からないからだ。
反日デモが激化した時、他の書店は日本関係の書籍を隠したが、万聖書園ではそうしなかった。「うちの読者層は、日本のよさが分かっている」と彼は言う。劉蘇里は、日中関係はそれぞれ互いのフィルターになる、すなわち中国は日本を通して、日本は中国を通して自国を振り返るべきだと考える。これは戦後レジームの日本における歴史観が中国共産党一党体制の説く「歴史認識」を再検討する契機にもなろう。
つまり、日本は戦争の反省や謝罪に呪縛され、中共は抗日戦争勝利を政権の正当性に使っているが、もはやそれから解き放たれて、互いに普遍的価値に沿って理性的・建設的になるべきなのだ。
彼に「日本に期待することは?」と問うと、「普通の国として、日本にふさわしい役割を国際社会で果たしてほしい」と答えた。
■日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
Part1 国民生活から国家までを揺さぶるサイバー空間の闇
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
InterviEw1 コロナ感染と相似形 生活インフラを脅かすIoT攻撃
吉岡克成(横浜国立大学大学院環境情報研究院・先端科学高等研究院准教授)
coLumn1 企業を守る手段の一つ リスクに備える「サイバー保険」 編集部
Part2 主戦場となるサイバー空間 〝専守防衛〟では日本を守れない
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員)
Part3 モサド元高官からの警告 「脅威インテリジェンス」を持て
ハイム・トメル(元モサド・インテリジェンス部門トップ)
Part4 狙われる海底ケーブル 中国サイバー部隊はこう攻撃する
山崎文明(情報安全保障研究所首席研究員)
Part5 〝国家〟に狙われる日本企業 経営層の意識変革は待ったなし
川口貴久(東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員)
coLumn2 不足するサイバー人材 「総合力」で企業を守れ 編集部
InterviEw2 「公共空間化」するネット空間 国民を守るために必要な機関
中谷 昇(Zホールディングス常務執行役員GCTSO)