2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年11月22日

 英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1・5度に抑える努力を追求する、石炭火力発電を段階的に削減するなどの内容を含む「グラスゴー気候協定」を採択し、閉幕した。しかし、温室効果ガス削減に資するはずの原子力発電の「復権」の機運は高まっていない。

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 11月4日付けのウォールストリート・ジャーナル紙に掲載された論説‘Nuclear Power Is the Best Climate-Change Solution by Far’は、「原子力発電が気候変動への最善の解決策である。その全体的な温暖化ガスの排出は石炭の700分の1であり、太陽光の4分の1である」と指摘する。この論説の筆者の一人フィラットは技術ベンチャーキャピタルや情報技術会社で働いた電気工学のエンジニアで、もう一人のミラーは物理学者・分子生物学者だそうである。

 この論説は、次のように具体的数値を交えつつ、原発利用の有効性を説く。

・MITの核工学の教授、Jacopo Buongiornoの計算によれば、建設、鉱物採取、輸送、稼働、廃炉、廃棄物処理を含む原発のライフサイクルを通じて、温暖化ガスの排出は石炭の700分の1、ガスの400分の1、太陽光の4分の1である。

・電力1単位あたりの原発建設のための必要な原料の量は同等の太陽光や風力よりずっと少ない。

・核廃棄物は明らかに処理が困難であるが、廃棄物の量は太陽光の1万分の1、風力の500分の1である。

・大規模原発の100億ドル、10年の計画・実施サイクルは小型モジュール反応炉で半分に減らせ、マイクロ反応炉でさらに半分にできる。

・マイクロ反応炉は5年から10年に一度燃料を供給するだけで1-20メガワットの発電(500-2000世帯に十分な電力供給ができる)が可能だ。これらは空気冷却でき、放射線を出すリスクなしに速やかに閉鎖可能で、小さなスペースしか必要としない。

・政治的ハードルを越えられるならば、マイクロ反応炉を電気自動車のための充電ステーションや大きな商船の推進力などいろいろな分野で使いうる。米海軍は50年以上問題なく船上核反応炉を使ってきた。

・原子力発電は安く、効率的で、非常に信頼性があり、ほぼ炭素排出しない。小型反応炉を含む新設計は大規模放射能汚染のリスクを大きく下げる。

 上記論説は、ご紹介した要点からも明らかな通り、脱炭素戦略で原発が果たすべき役割を強調し、特に小型原発を多く作り、炭素排出なしに電力を供給しうるようになれば、脱炭素化を痛みなく実行できると説いている。


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