脱石炭も楽勝な英国
英国は石炭火力発電所の閉鎖を進めている。石炭火力発電が経済性を失っているという簡単な事実を反映した動きだ。英国の産業革命を支えたのは石炭だ。石炭生産は18世紀後半の産業革命から伸び続け20世紀初めには3億㌧近い年産数量に達する。しかし、その後取り扱いが容易な石油、天然ガスにシェアを奪われ生産数量は減少した。
それでも今世紀初めまで国内の発電を支える燃料だったが、坑内掘り炭鉱の採炭条件の悪化による生産数量減(図-1)と石炭火力発電所の老朽化により急速に石炭火力発電量は減少する(図-2)。英国に見られるように、欧州主要国の石炭火力発電の減少をもたらしたのは、国内炭鉱の採炭コスト上昇により石炭火力発電が経済性を失ったという問題だった(「実は減らない世界の石炭火力発電、欧米の石炭火力を減らしたのは市場の力」)。
日本をはじめとしたアジアの国の事情は大きく異なる。1960年代から国内炭鉱の採炭条件が悪化し生産数量減少に直面していた日本は、80年代から豪州を中心とした石炭産出国から輸出される石炭を燃料とする石炭火力発電所を大型港湾と共に、日本の各地に建設した。韓国、台湾も同様のことを行い、最近東南アジアの国も石炭火力発電所を建設している。条件のよい海外の炭鉱から輸出され大型船で運ばれる石炭は価格競争力を持ち、多くのアジアの国において石炭火力は最もコスト競争力を持つ電源になった。
欧州主要国の国内炭鉱からの石炭を燃料とする発電所とは、発電所の建設時期も燃料供給の構造も異なり、当然コスト競争力にも大きな違いがある。欧州主要国が簡単に進めることが可能な脱石炭は、アジアの国には電力コスト上昇を引き起こし、さらには安定供給に影響を与えることになる。アジアにおいては脱石炭は簡単にはできない。
「抵抗勢力」インドが抱える苦悩
COPの席上で、インドは石炭使用と化石燃料への補助金の段階的廃止に強く反対した。多くの西側のマスメディアは「抵抗勢力はインド」と取れる報道を行った。
インドの環境大臣は「途上国が石炭利用を廃止する約束ができると、どうして思えるのか。インドは貧困層に対し支出している天然ガスに関する補助金を止めることはできない」と発言した。世界のCO2排出量の7%を占め、中国、米国に次ぐ世界第3位の排出国インドが、温暖化対策を進めない、けしからんと見ることもできるが、インドの現実はどうだろうか。
インドの都市の街中を歩いていると、やせ細った物乞いに2重、3重に囲まれることがある。皆両手を前に差し出した姿勢で迫ってくるのは、ちょっとした脅威だ。だが、この人たちはアウトカースト(不可触民)と呼ばれる人たちなので、外国人に触れることはない。歩き出せば、両手を前に差し出したまま道を開けてくれる。
インド第2位の都市ムンバイの海岸線は、「女王の首飾り」と呼ばれる綺麗な夜景でも有名だ。だが、そのすぐ近くの路上では日没後どこからともなく持ち出したマットレスが並べられ、多くの人が就寝の準備を始める。
課題は温暖化だけではない
路上で生まれ、路上で死ぬということは本当にあると実感させられる。以前インド滞在中にたまたま目にしたローカル紙に、満腹感を味わったことがあるかとのアンケート結果が掲載されていたが、8割の人が生まれてから一度も満腹感を味わったことがないと答えていた。