中国では、「共同富裕」のスローガンが頻繁に用いられている。国民が等しく豊かになるという、そもそもは改革開放を開始した鄧小平が用いた言葉である。鄧は、計画経済の非効率を打破し、まず可能性のある一部の者が先に豊かになってからその他の者を豊かにする、という現実的な道筋を考えていた。中国が米国に迫る経済大国となったことで、国民全体の豊かさを実現すべきとの議論が高まってきたのは当然かもしれない。
報道を総合すると、強調されているのは、所得再分配である。具体的には、第1次分配として労働者・農民の取り分(分配率)を増加し、第2次分配として税制を用いた再分配を行い、第3次分配として富裕者の寄付を求める、となっている。目前では第3次分配にスポットが当てられているが、第1次・2次分配が重要であり、経済成長のあり方全体を見直す必要がある。
独占禁止法など法的手段で公平な競争環境を実現し、違法所得、不合理な所得を許さないことや、年金や医療などの公共サービスの平等化を図ることも重要である。前者は、電子商取引(EC)大手のアリババ集団など独占的利益を上げている企業への規制として、後者は、都市・農村間や各地域間の公共サービス格差を縮小する施策としてすでに実施されている。
もう一つ注目されるのは、「浙江モデル」と呼ばれる共同富裕実現モデルが推進されていることだ。特定地域の成功経験を集約し全国に普及していくという手法は、中国の得意とするところであり、2021年5月に共産党中央と国務院が決定した「浙江の質の高い発展・共同富裕モデル建設支援に関する意見」には、先述の所得再分配、都市・農村・地域発展格差の縮小に向けた地方政府への権限委譲と支援が盛り込まれている。
とはいえ、浙江省は経済的先進地域である。有力な地場企業と経済活動に慣れた農民が存在し、ポテンシャルはもともと高い。また、同省はかつて習近平国家主席がトップを務めた場所であり、その政治業績を称賛する狙いが透けて見える。
「共同富裕」の目標は、大多数の国民に標準的生活(ナショナル・ミニマム)を達成することである。だが問題視されている格差は、改革開放の40年間が生み出したものであり、既得権益と結びついている。全国が浙江省のように発展できるわけではない。権力を集中した習氏にとってもその実現は容易ではないといえよう。
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