2024年12月22日(日)

世界の記述

2022年1月9日

 中国では、「共同富裕」のスローガンが頻繁に用いられている。国民が等しく豊かになるという、そもそもは改革開放を開始した鄧小平が用いた言葉である。鄧は、計画経済の非効率を打破し、まず可能性のある一部の者が先に豊かになってからその他の者を豊かにする、という現実的な道筋を考えていた。中国が米国に迫る経済大国となったことで、国民全体の豊かさを実現すべきとの議論が高まってきたのは当然かもしれない。

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 報道を総合すると、強調されているのは、所得再分配である。具体的には、第1次分配として労働者・農民の取り分(分配率)を増加し、第2次分配として税制を用いた再分配を行い、第3次分配として富裕者の寄付を求める、となっている。目前では第3次分配にスポットが当てられているが、第1次・2次分配が重要であり、経済成長のあり方全体を見直す必要がある。

 独占禁止法など法的手段で公平な競争環境を実現し、違法所得、不合理な所得を許さないことや、年金や医療などの公共サービスの平等化を図ることも重要である。前者は、電子商取引(EC)大手のアリババ集団など独占的利益を上げている企業への規制として、後者は、都市・農村間や各地域間の公共サービス格差を縮小する施策としてすでに実施されている。

 もう一つ注目されるのは、「浙江モデル」と呼ばれる共同富裕実現モデルが推進されていることだ。特定地域の成功経験を集約し全国に普及していくという手法は、中国の得意とするところであり、2021年5月に共産党中央と国務院が決定した「浙江の質の高い発展・共同富裕モデル建設支援に関する意見」には、先述の所得再分配、都市・農村・地域発展格差の縮小に向けた地方政府への権限委譲と支援が盛り込まれている。

 とはいえ、浙江省は経済的先進地域である。有力な地場企業と経済活動に慣れた農民が存在し、ポテンシャルはもともと高い。また、同省はかつて習近平国家主席がトップを務めた場所であり、その政治業績を称賛する狙いが透けて見える。

 「共同富裕」の目標は、大多数の国民に標準的生活(ナショナル・ミニマム)を達成することである。だが問題視されている格差は、改革開放の40年間が生み出したものであり、既得権益と結びついている。全国が浙江省のように発展できるわけではない。権力を集中した習氏にとってもその実現は容易ではないといえよう。

Wedge1月号では、以下の​特集「破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか」を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
■破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
 マンガでみる近未来    高騰する物価に安保にも悪影響  財政破綻後の日常とは?
漫画・芳乃ゆうり 編集協力・Whomor Inc. 原案/文・編集部
PART1 現実味増す財政危機  求められる有事のシミュレーション
佐藤主光(一橋大学大学院経済学研究科 教授)
PART2 「脆弱な資本主義」と「異形の社民主義」 日本社会の不幸な融合
 Column  飲み会と財政民主主義
藤城 眞(SOMPOホールディングス 顧問)
 COLUMN1  お金の歴史から見えてくる人間社会の本質とは?  
大村大次郎(元国税調査官)
PART3 平成の財政政策で残された課題  岸田政権はこう向き合え
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)
​PART4 〝リアリティー〟なきMMT論  負担の議論から目を背けるな
森信茂樹(東京財団政策研究所 研究主幹)
 COLUMN2  小さなことからコツコツと 自治体に学ぶ「歳出入」改革 編集部
PART5 膨らみ続ける社会保障費 前例なき〝再構築〟へ決断のとき
小黒一正(法政大学経済学部 教授)
PART6 今こそ企業の経営力高め日本経済繁栄への突破口を開け
櫻田謙悟(経済同友会 代表幹事・SOMPOホールディングスグループCEO取締役 代表執行役社長)
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土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)

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Wedge 2022年1月号より
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか

日本の借金膨張が止まらない。世界一の「債務大国」であるにもかかわらず、新型コロナ対策を理由にした国債発行、予算増額はとどまるところを知らない。だが、際限なく天から降ってくるお金は、日本企業や国民一人ひとりが本来持つ自立の精神を奪い、思考停止へと誘(いざな)う。このまま突き進めば、将来どのような危機が起こりうるのか。その未来を避ける方策とは。“打ち出の小槌”など、現実の世界には存在しない。


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