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2022年1月5日

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山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学名誉教授

NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

欧州で導入が進む水素列車

 欧州環境保護庁(EEA)が発表している輸送方法別のCO2排出量では、乗客1人キロメートル(km)当たり航空機160グラム(g)、乗用車143g、バス80g、船舶61gに対し鉄道は33gとなっている。また、貨物トン当たりのCO2排出量は、航空機1036g、大型トラック137g、はしけ(輸送船)利用33g、鉄道24g、海運7gと、やはり鉄道からの排出量は小さい。世界の輸送部門からのCO2排出量に占める鉄道の比率も全排出量の1%と小さいが(図-2)、約8300万トンある。

 電化されていない鉄道路線では、主にディーゼル車が利用されるが、CO2排出に加え騒音、振動などの問題もある。CO2排出量削減のため、短距離区間であれば蓄電池を搭載した列車を運行することも可能だが、蓄電池の重量と充電時間から長距離区間での利用は難しい。

 鉄道部門からの排出削減策として考えられるのは発電部門の非炭素化を前提とした路線の電化だが、運行頻度が高くない路線では投資回収の面から実現は難しい。日本の路線の電化率は67%だが、EUの電化率は54%に留まり、EU内では約5000編成のディーゼル列車が利用されている。

 非電化区間の脱炭素のため、フランスの多国籍鉄道車両メーカー、アルストム社が13年から開発を進めたのがコラディア・アイリントと呼ばれる水素利用の燃料電池列車だ。18年9月ドイツハンブルグ郊外の123キロメートルの区間で150シート、定員300人の2両編成が運行を開始し、その後、オーストリア、フランス、スウェーデン、ポーランドなどで試運転が行われた。

 既に、ドイツで41両編成、イタリアで最大14両編成、フランスで電化区間でも利用可能なハイブリッド列車12両編成の発注が行われ、さらにEUでは導入が進む。鉄道に加え燃料電池利用のトラックの導入もEUでは進むとみられ、欧州委員会(EC)は30年の燃料電池トラックのシェアは17%になるとみている。

 電動化が難しい航空機には、非炭素電源の電解により製造された水素と大気中から吸着したCO2から製造されるe-燃料の利用が想定されている。輸送部門では水素の需要が高まるが、エネルギー多消費型産業では桁違いの需要量が予想される。

高炉製鉄が必要とする大量の水素

 世界鉄鋼連盟によると、20年世界の鉄鋼製品1トン製造に伴い排出されたCO2は、1.85トンだった。全世界の鉄鋼生産量は18億6000万トン、CO2排出量は33億トン。世界の総排出量の1割に近い。鉄鋼製品の製造には、鉄スクラップを電気炉で溶融し製造する方法と石炭コークスを利用し鉄鉱石を高炉で溶融、還元し製造する方法がある。

 電炉製鉄は使用する電気によりCO2排出量が左右されるので、再エネあるいは原子力の電気を利用すれば、CO2排出量を削減することが可能だ。日本では電炉製鉄製品1トン当たり0.5トンのCO2排出量になる。

 一方、コークスを利用する高炉製鉄では、鉄鉱石(Fe2O3)をコークス(C)で還元し鉄(Fe)を取り出すため、CO2が排出される。日本の高炉製鉄では製品1トン当たり2.2トンのCO2が排出される。使用する電気の排出量まで含めると日本の鉄鋼生産に伴い排出されるCO2は日本の全排出量の14%を占める。

 脱炭素には、鉄鋼業からのCO2排出量削減が大きな課題になる。高炉から電炉に生産を切り替えればCO2排出量は減少するが、高炉でしか生産できない高級鋼材があること、鉄スクラップの数量にも限度があることから高炉製鉄は必要だ。高炉製鉄の脱炭素にはコークスに代わり水素を利用することになる。水素を利用すれば排出されるのはCO2ではなく、水になる。

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