2022年11月29日(火)

World Energy Watch

2022年1月5日

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山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学名誉教授

NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

 20年の世界の粗鋼生産は18億6000万トン、そのうち高炉による生産量は13億1000万トン、約7割を占めている。世界の高炉製鉄に使用されるコークスを水素に変えると、その必要量は7200万トン、電解により水素を製造すると現状の技術では必要な電力量は4兆キロワットアワー(kWh)に達する。

 英石油大手BPが公表する統計による20年の全世界の発電量26兆8230億kWhの15%、日本の発電量の4倍に相当する電力量になるが、発電時にCO2を排出しない再エネ、原子力あるいはCO2を捕捉し、貯留する装置が付いた火力発電設備からの電気が必要になる。すでに、米国、EUは非炭素電源による水素製造の具体策を練っている。

本気を出してきた米国の水素戦略

 21年8月、米大手電力エクセロン社は、ニューヨーク州の同社の原子力発電所に隣接し建設が進められているクリーン水素製造の1メガワット(MW)の電解装置にDOEから約500万ドルの補助金が支出されると発表した。21年10月、DOEは、アリゾナ州の原子力発電所の電気から電解により水素を製造し、燃料製造、発電など多様な用途への利用を検討する産学官共同の事業に2000万ドルの補助金を支出すると発表した。

 DOEはいま製造コスト削減計画を推進している。現在の再エネ利用による水素製造コスト1キログラム(kg)当たり5ドルを、26年までに2ドル、30年までに1ドルにする計画の一端を担う産学官案件とされている。

 米政権の水素にかける本気度は、11月15日成立した1兆2000億ドルの投資を行う超党派によるインフラ投資・雇用法の中に95億ドル、1兆円を超える水素関連投資が含まれていることからも見て取れる。

 水素製造などの検討のための拠点を少なくとも4か所に設置するため80億ドル、1kgの水素製造時のCO2排出量が2kg以下になるクリーン水素製造の研究開発に5億ドル、電解による水素製造のコスト引き下げなどに10億ドル。他にも電気自動車用充電、燃料電池車用充填設備整備に25億ドルの予算が組まれている。

原子力か再エネ利用かで意見が分かれる欧州

 ECも水素に力を入れている。フォンデアライエンEC委員長は、21年11月、次のように語り、水素の将来に自信を示した。「天然ガスから製造する水素の20年のコストはkg当たり約2ユーロ。再エネ電源から電解で製造する水素のコストは現在約6ユーロ、30年までには1.8ユーロ以下になる。手の届くところにある」。EU内とウクライナ、モロッコなどに風力、太陽光発電設備を設置し、30年に1000万トンの水素を製造する計画だ。

 ECが進めるグリーン水素製造に対し、原子力発電も活用すべきとフランス・マクロン大統領は主張している。欧州のエネルギー・電力危機を受け、安定的な電源である原子力発電を活用すべきとの声もEU内で高まっていたが(「何度でも言おう このままでは日本の停電は避けられない」)、21年10月12日、マクロン大統領は「再エネ電源がグリーン水素製造に足る能力を持つことは決してない。フランスが持つ原子力設備を利用しグリーン水素を製造すべき」と発言し、「フランス政府が計画する300億ユーロの投資計画の中で、10億ユーロをEDF(フランス電力)が開発中のSMRにあて、さらに30年までに水素製造の大規模設備を2カ所に設置する」とSMR開発と原子力利用のグリーン水素製造を発表した。

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