裁判官の心を揺さぶる交渉術
最高裁の会議室は歴代判事の肖像画が並ぶ固い雰囲気である。背もたれに手の込んだ木彫のある重い椅子に座り長官と対面した。まず手短に今抱えている案件の概要と自分の判断を説明し、引き続き次のような話をした。
「この国や近隣の国では本件のような知的財産に関する判例はまだ少ない。そこで誰もが納得するいい判決が出されたら、中米におけるリーディングケースとして評価されるであろう。自分がそれを世界に向かって発信してもいい。そのような判例によりこの国は知的財産を保護する国として認識され、海外の投資を誘う結果に結び付くはず」といった。
話の途中で彼がほんの少し身を乗り出しじっと耳を傾け集中していることに気が付いた。考慮に値する話として認識したのではないか。会合の目的は達した。あとは彼にまかせて、公平な判決を待てばよい。
会合から数カ月たったある日、被告側がもう終了させたいと一方的に折れる内容で和解の申し入れをしてきた。第一審で勝っているにもかかわらず、である。期待されたリーディング判決は、残念ながら相手が降りたために日の目を見ることはなかった。ただその裏側で、こちらが最高裁長官に会ったという情報が相手に伝わり、莫大な賄賂を使ったと想像し、継続困難という判断をしたのかもしれない。実際には、日本の某お菓子屋さんの重たい羊羹4本詰合せだけが彼への手土産のすべてであった。
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