世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年2月4日

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 ハーバード大学のジョセフ・ナイが1990年代に提唱したソフトパワーという概念は、国際政治においてもてはやされた時期があったが、最近の香港、ミャンマー、アフガニスタンなどの状況や、ウクライナや台湾に対する脅威に対して無力だとの見方も出てくるのはやむを得ないことであろう。

 ナイが言うソフトパワーは、大雑把に言えば、文化、価値観、政策など、軍事の行使やその威嚇及び経済的強制といったハードパワー以外の源泉がもたらす魅力により、相手をこちらの外交目的に資する方向に動かすのに資する、という意味でのパワーである。

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 ソフトパワー無力論に対し、ナイ自身がProject Syndicateのウェブサイトに1月11日付けで掲載された論考‘Whatever Happened to Soft Power ?’で反論している。同論説でナイは、「ソフトパワーは、その効果が緩慢で間接的であるため、パワーの唯一の、あるいは最も重要な源ではない。しかし、それを無視したり、軽視したりすることは、戦略上も分析上も重大な誤りだ」と述べ、「どの国のソフトパワーも、今後の軌跡については誰も確信が持てない。しかし、魅力による影響力が国際政治の重要な要素であり続けることに疑いの余地はない。ソフトパワーはもう死んだとの見方は甚だしく誇張されたものだ」と指摘している。

 ナイ自身も上記論説で強調しているが、元々ソフトパワーは万能ではなく、また、民間によるソフトパワーが外交目的に資するとは限らないので、いくら努力しても特定の外交目標を実現できない場合は当然ある。また、そもそも、ハードパワーを外交目的実現のために実際に行使できる国、あるいは、行使する国がそう多いわけではない。国連決議に基づく経済制裁を別としてハードパワーを原則的に行使しない日本のような国にとっては、ソフトパワーが交渉と説得による純粋な外交を支援する重要なツールであることは明らかであり、現実に外務省や関係機関もそのような面に大いに努力している。

 従って、日本のような国にとっては、どのようなソフトパワーが高い効果を持つのか、あるいはどの組み合わせが効果的かなど、どのようなケースに効果があるかといったソフトパワーの各論が重要な課題となる。また、政府の意向と関係なく行われる民間のソフトパワーの意義も少なくないように思われる。ナイも上記の論説で、抗議運動、企業、大学、財団、事業などが、それぞれ独自のソフトパワーを開発しており、その活動は、公式の外交政策目標を補強することもあれば、対立することもある、と述べている。

 純粋な外交交渉と様々なソフトパワーの相乗的な効果が発揮され、また、背景として基本的に友好的な関係が存在しているような場合に、ソフトパワーはより大きな効果を発揮すると思われる。

 米国などのハードパワーを行使する国にとっては、ハードかソフトの選択或いは組み合わせの問題となるが、ハードが行使できない、或いは効果を持たない場合には、日本も共有できる問題となる。

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