未だに産業革命に支配された学校教育と受験対策
それは情報化・デジタル化が急速に進む現代において求められるスキルは、従来のそれとは全く異なるという認識である。このような概念は、国立教育政策研究所が2014年頃から発表した一連の報告書により紹介された(※)。
(※) https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h25/2_1_allb.pdf
https://www.jpf.go.jp/j/urawa/about/world/dl/160130/160130_01.pdf
現在の日本の学校で教えられているのは、主としてAの「知識」という領域である。そして先述の通り、受験においては合格を目指して苛烈なまでの知識のインプットが行われる。しかし一連の報告書によると、従来の学校教育や受験対策という知識習得に偏重した学びのスタイルは、産業革命以降の工業化社会を効率的に維持していくためのものであり、目下進行する情報化・デジタル社会において求められるスキルではないという。確かにわれわれの現在の生活スタイルは、昭和や平成初期の頃とは全く違うものになっている。スマートフォンを例にしても、その登場でコミュニケーション手法、エンターテイメントの範囲、メディア・広告の在り方、金融の利便性などが劇的に変化した。デジタル・トランスフォーメーション(DX)の進行により、生活のあらゆる分野でこれまで以上の変化が起きてくるのであろう。
そんな変化の大きな時代に必要なのは、知識ではないということらしい。知識はネット上に溢れており、むしろ必要なのはそれらの知識や情報を紡いで問題を解決する能力だ。今「問題」と書いたが、問題集の「問題」は英語で言えばQuizであり、正解はAnswerだ。だが社会に溢れる「問題」は、ProblemやChallengeであり、それに対する正解はなく、あるのは解決法の提言(Proposed Solution)だ。なぜ提言かと言うと、価値観が多様化した社会では、万人に支持される案などないからだ。反対者は必ず存在し、その反対者の協力をなんとか取り付ける能力も必要になる。
国立教育政策研究所の資料をもとに、工業科社会と現在の情報化・デジタル社会双方で求められるスキルの比較表を作ってみたので下記を見ていただきたい。学びのスタイルの差異があまりに大きいことに驚くであろう。われわれがこれまで学んできたことや、机にかじりついて行っている受験勉強が、何か化石時代のことのように思えてしまうほど大きな学びのパラダイムシフトである。
報告書の中では、これからの時代に必要な「21世紀型スキル」が紹介され、その習得にシフトするべきだと提言している。実際、大学入試改革はその延長として発生してきており、また先述したような中高受験におけるC領域の入試問題の登場もその影響なのである。