軍縮の歴史から学べる現代的課題
最後に、両大戦間期における軍縮体制の特質を考察するための材料として、1934年当時の外務省欧米局長(6月から欧亜局長)であった東郷茂徳(太平洋戦争開戦時・終戦時それぞれにおける外務大臣)の戦後における回想を紹介したい。東郷は以下のように記し、軍縮条約破棄に対し否定的な見解を述べている。
「ある日、吉田[善吾海軍省]軍務局長が、米国とはそのうち支那問題のため戦争となることが予想せらるるが、その場合日本は条約の制限による建艦は非常に不利であるから、むしろ条約破棄を得策とすとの説を述べたから、自分は支那問題もさる事ながら、建艦競争の結果が戦争となることは明らかであり、戦争は日本のためにも避くる必要があることを以てこれに酬いたこともあった」(東郷茂徳『時代の一面―大戦外交の手記』 中公文庫)。
東郷の立場は戦前では少数派に属しており、日本の政策決定は吉田の立場に沿ってなされた。敗戦後の日本ではこの価値観が逆転し、軍事力に対する信頼は地に落ちたと言える。ところが米英をはじめとする第二次世界大戦の戦勝国における政策決定者においては逆に、軍縮が戦争を防止する有効な手段とする認識がきわめて希薄となり、自国の安全確保のために軍事力の充実をきわめて重要視する現象が生じた。軍縮をめぐる経験や教訓は、国や時代によって変化して一致を見ないのが世界の実情である。
その意味において、国益を増大させるために(戦間期の英米におけるように)経済や金融、あるいは文化面での交流を重視すべきか、あるいは(1930年代の日本や第二次大戦後の米国のように)軍事力への信頼によって自国の平和と安全を図るべきかという選択は、現代の政策決定者や国民が絶えることなく直面する課題であると言えよう。
■魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない
PART1 魚が減った本当の理由 日本の漁業 こうすれば復活できる
片野 歩(水産会社社員)
Column 1 その通説は正しいのか? 漁業のギモンにお答えします
PART2 ノルウェーだって苦しかった 資源管理成功で水産大国に
ヨハン・クアルハイム(ノルウェー水産物審議会(NSC) 日本・韓国ディレクター)
Column 2 原始時代から変わらぬ日本の釣り 科学的なルール作りを
茂木陽一(プロ釣り師)
PART3 70年ぶりに改正された漁業法 水産改革を骨抜きにするな 編集部
PART4 「海は俺たちのもの」 漁師の本音と資源管理という難題
鈴木智彦(フリーライター)
PART5 行き詰まる魚の多国間管理 日本は襟元正して〝旗振り役〟を
真田康弘(早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授)
PART6 「もったいない」を好機に変え、日本の魚食文化を守れ!
島村菜津(ノンフィクション作家)
Column 3 YouTuber『魚屋の森さん』が挑む水産業のファンづくり
森 朝奈(寿商店 常務取締役)
Opinion この改革、本気でやるしかない 編集部