2024年4月25日(木)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2022年2月17日

軍縮の歴史から学べる現代的課題

 最後に、両大戦間期における軍縮体制の特質を考察するための材料として、1934年当時の外務省欧米局長(6月から欧亜局長)であった東郷茂徳(太平洋戦争開戦時・終戦時それぞれにおける外務大臣)の戦後における回想を紹介したい。東郷は以下のように記し、軍縮条約破棄に対し否定的な見解を述べている。

 「ある日、吉田[善吾海軍省]軍務局長が、米国とはそのうち支那問題のため戦争となることが予想せらるるが、その場合日本は条約の制限による建艦は非常に不利であるから、むしろ条約破棄を得策とすとの説を述べたから、自分は支那問題もさる事ながら、建艦競争の結果が戦争となることは明らかであり、戦争は日本のためにも避くる必要があることを以てこれに酬いたこともあった」(東郷茂徳『時代の一面―大戦外交の手記』 中公文庫)。

 東郷の立場は戦前では少数派に属しており、日本の政策決定は吉田の立場に沿ってなされた。敗戦後の日本ではこの価値観が逆転し、軍事力に対する信頼は地に落ちたと言える。ところが米英をはじめとする第二次世界大戦の戦勝国における政策決定者においては逆に、軍縮が戦争を防止する有効な手段とする認識がきわめて希薄となり、自国の安全確保のために軍事力の充実をきわめて重要視する現象が生じた。軍縮をめぐる経験や教訓は、国や時代によって変化して一致を見ないのが世界の実情である。

 その意味において、国益を増大させるために(戦間期の英米におけるように)経済や金融、あるいは文化面での交流を重視すべきか、あるいは(1930年代の日本や第二次大戦後の米国のように)軍事力への信頼によって自国の平和と安全を図るべきかという選択は、現代の政策決定者や国民が絶えることなく直面する課題であると言えよう。

<主要参考文献>
防衛庁防衛研修所戦史室編(執筆:野村実)戦史叢書第91巻『大本営海軍部・連合艦隊<1>』朝雲新聞社、1975年
河尻融『ワシントン海軍軍縮条約廃棄問題』デザインエッグ、2016年
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