2024年7月16日(火)

教養としての中東情勢

2022年3月14日

 内戦で経済が壊滅状態のシリアでは軍の将兵への給与も滞っており、彼らにとって3000ドルというのは大金だ。義勇兵とは言うものの、その実態はカネ目当ての傭兵で、ウクライナ軍と戦う大義などはない。中東専門誌によると、ロシア国防省はウクライナに向かうシリア人部隊と見られる動画を公表している。

「ワグネル」の正体

 ロシア軍の意向を受けて徴募を担当しているのは事実上、軍の別働部隊と言われている「ワグネル」とされる。ウクライナ戦争でのロシア軍兵士の戦死者は4000人を超えていると伝えられているが、「義勇兵はこの戦死者の穴を埋めるための補充であり、ロシア兵の損害を最小限にするための政策。ロシア軍の侵攻作戦がうまくいっていない証拠だ」(ベイルートの専門家)との見方が強い。

 ウクライナの首都キエフに迫るロシア軍は今後、待ち構えるウクライナ軍との間で激しい市街戦を想定していると見られている。市街戦では民間人の死傷者の急増が懸念されているが、シリア人傭兵部隊は市街戦の前線に投入され、民間人の殺りくをも辞さない作戦に投じられる可能性が高い。〝汚れ役〟の役割を担わされるということだ。

 「ワグネル」の実態は謎に包まれている。情報を総合すると、同組織の創設者は元ロシア軍兵士のドミトリー・ウトキン氏。2016年12月、クレムリンの式典でプーチン大統領と一緒にいるところを目撃されている。同氏はナチのタトゥーを入れているとされる。「ワグネル」という名称もヒトラーが好んだドイツの作曲家ワーグナーにちなむものという。

 現在の実際の経営者はロシアの実業家のエフゲニー・プリゴジン氏。プーチン大統領に近く、16年の米大統領選への干渉容疑で、米国内で起訴されているいわくつきの人物だ。今回のウクライナ侵略でも、その強大なネットワークを使って欧米向けに偽情報を流し続けているとされる。

 「ワグネル」は14年のクリミア併合でロシア軍の先兵として浮上、その後のウクライナ東部ドネツク州などでの戦闘に参戦していたと伝えられており、今回のウクライナ侵略でも重要な役割を果たしていると見られている。

 ワシントンの専門機関などによると、「ワグネル」は16年以降、28カ国に活動の足跡を残しているが、うち18カ国はアフリカだ。シリアやリビア内戦でも、その存在が取り沙汰されてきた。同社はリビア内戦では、数百人規模のシリア人傭兵を送り込んだ。

 しかし、「ワグネル」の実態は不明の部分が多い。英作家フレデリック・フォーサイスの小説『戦争の犬たち』を彷彿させるような活動をしていると言われるが、18年に中央アフリカでの暗躍ぶりを取材していたジャーナリストが何者かに殺害されたり、シリア内戦の活動を伝えたロシア人記者が自宅のアパートから転落死するなど、不可解な出来事も起きている。


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