アサド政権に打撃
しかし、シリアのアサド大統領にとっては、最強の正規軍から傭兵として数千人の兵士が引き抜かれるのは極めて危険だ。内戦は膠着状態にあるが、シリア北西部イドリブ県は依然、「シリア解放委員会」などの反体制派が支配しており、正規軍が弱体化した機会に乗じて、彼らが一気に攻勢に出る可能性があるからだ。
アサド政権はロシアの軍事力で政権を維持してきたが、正規軍の力がそがれた上、駐留していたロシア軍がウクライナに回るようなことになれば、反体制派との戦力バランスが崩れかねない。だが、だからと言って兵士の徴募というロシアの意向には反対できないのが実情だろう。
ウクライナ戦争は政治的な面でもアサド大統領にとっては大きなマイナスだ。シリアは内戦でスンニ派イスラム教徒を弾圧したなどとしてアラブ連盟から除名された。しかし、最近になって一部のペルシャ湾岸諸国と関係改善、アラブ世界への復帰も見え始めていた。ウクライナ戦争はこうした動きに水をさしかねない。ロシアに逆らえない大統領は大きなジレンマに直面した格好だ。