自由だからこそ生まれる新しい文化
ただし、負の側面ばかりではないのだ。こうした自由な環境だからこそ、生まれる新しい文化やスーパースターが存在する。昔であれば、本作で描かれているようなキャバクラやホストクラブといった舞台は、いかがわしいイメージしかなかった。歌舞伎町を中心とするこうした世界の人々が、スターダムにのし上がることは難しかったであろう。
しかし2003年刊行の『夜王』(倉科遼、井上紀良、集英社)や、05年刊行の『小悪魔ageha』(メディアパル)といった、漫画・雑誌から潮目が変わり、ホスト風なファッションやキャバ嬢といった存在が、徐々にマスメディアにも登場するようになってきた。
さらに現在、「SNSの発達により、自分と違う世界の暮らしが垣根なく見れる時代」となったことで、もはやこうした文化や人物は市井のスターダム的な存在になっている。例えば「相沢えみり」や「一条響」、「もんりょう」といったトップクラスのキャバ嬢たちは、もはやティーンネイジャーのファッションアイコンになのだ。
上の世代からするといかがわしいが、若者からすると刺激的で革新的なカルチャー。まさにこれは、1960年代後半に、米カリフォルニアを中心として起こったヒッピー文化の再来といえる。当時は、社会が安定し自由度が増したからこそ、既存の価値観に抗う「ドラッグ・セックス・ロックンロール」に熱狂するカウンターカルチャーが勃興した。「不良の音楽」といわれたビートルズのようなスーパースターが生まれたのも、こうした背景によるものだ。
今の歌舞伎町はまさにそれであり、これらのカルチャーをストレートに描いた本作品が、現代の若者の心を掴むのもその証左である。実際に、歌舞伎町が生み出して一般層に広く普及した、
「ぴえん」や「地雷系」という言葉を聞いた人も多いであろう。元々は秋葉原が「オタクカルチャー」としてトレンドを作り出すホットスポットだったが、現代ではそれが歌舞伎町に移っているきらいさえある。
あのハイブランドのGUCCIが、「ドラえもん」とコラボして、非常に目立ちやすくキャラクターをあしらった商品を発売した。元々のイメージだと、なぜこんなにキャラクターを前面に出したビジュアルで展開するのか!?と疑問に思うかもしれないが、現代のインフルエンサーたちには、一見して何の商品かすぐに分かり、SNSにアップして自慢になる、という商品が刺さるということなのだ。
このような若者のトレンドを掴み、潮流に乗ってビジネスに活かすにも、本作品は重要な参考文献といえるだろう。