近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。
ウクライナ戦争においてウクライナの国民がロシア軍に激しく抵抗し「奴隷になるよりは死を選ぶ」として戦っていることに対して、日本では「早く降伏した方がいい」と否定的に捉える人がいたことは驚きであった。
これは、ソ連・ロシアに支配されたウクライナの近現代史への無理解が原因と思われる。ウクライナは、ソ連・ロシアから残虐この上ない仕打ちにあったことがあるため、「死を賭した抵抗」という態度に出ているのである。
それを理解するのに最適の書が、近年、ウクライナをはじめポーランド、ベラルーシ、バルト諸国、ルーマニア、ロシア西部地方などの「流血地帯(ブラッドランド)」では、1930年代から第二次世界大戦終了にかけての時代、ヒトラー・ドイツとスターリン・ソ連のために、約1400万人もの人が殺されたことを明らかにした本書である。
ウクライナ人が戦う理由
とくに深刻であったウクライナでは、まず1928年から32年にかけての第一次五カ年計画の実施の際、スターリンによって過酷な農業集団化政策が実施された。スターリンは「富農(クラーク)をひとつの階級として抹殺する」と宣言、富農絶滅政策を取ったのである。富農が誰であるかは、恣意的に決められ農民の集団強制移住が実施された。これによってウクライナ人はじめ約170万人が極寒のシベリアなどに何千両もの貨物列車に詰め込まれて送られ、奴隷労働に従事させられ死んでいったのである。