力(パワー)の相違
バイデン大統領は演説の前半で、民主主義と専制主義の戦いを「自由VS抑圧」の対立構図に置き換え、「専制主義は法を侮辱する。自由を侮辱する。真実を侮辱する」と畳みかけた。そうすることで、ウクライナの体制転換を狙う専制主義者であるプーチン氏を厳しく糾弾した。
さらに、バイデン氏はプーチン氏に関して「力が正義だ」と思い込んでいると批判した。プーチン氏は軍事力や権力で相手をねじ伏せるのが正義だと信じているというメッセージを発した。つまり、バイデン氏から見たプーチン氏の「力」とは強制力である。
これに対してバイデン氏は「正義感が力である」と言い切った。道徳観や倫理観こそが力であるというのだ。
この演説でバイデン大統領がプーチン大統領との力に関する認識の相違を明確にした点は看過できない。米国人は武力行使重視のプーチン大統領を「強いリーダー」、道徳観および倫理観尊重のバイデン氏を「弱いリーダー」としてみているからだ。
「強いリーダー」の演出
バイデン氏が演説でプーチン政権の体制転換に関する発言をすると、即座にアントニー・ブリンケン米国務長官は「私たちは体制転換の戦略を持っていない」と説明した。「バイデン政権の外交政策の変更か」「バイデン大統領の外交上の失敗だ」「バイデン氏は2020年の大統領選で大統領の言葉は重要だと訴えていた」「大統領は言葉の上でも緊張を緩和するべきである」といった疑問や批判の声が相次いで出たからだ。
加えて、バイデン氏の発言について「
ビル・クリントン元大統領の選挙コンサルタントであったポール・ベガラ氏は、バイデン氏のワルシャワ演説での発言をどう捉えたのだろうか。ベガラ氏は冷戦時代のドナルド・レーガン元大統領が旧ソ連を「悪の帝国」と呼び、強いリーダーを演出した点を指摘した。同様に、バイデン氏も強いリーダーを意識していると分析した。
バイデン氏はプーチン氏を「戦争犯罪人」「虐殺者」と呼んでいる。ロシアの体制転換と解釈できる発言も、「バイデン氏が自分を強く見せるためだ」と、ベガラ氏はみている。