2024年11月22日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年5月15日

 極端な場合には、日本人女性と結婚して日本人の家庭に事実上「入り婿」して同居していた米国人の男性が暴力事件を起こし、その男性が基地に勤務する「軍属」だったということで、事件を契機に基地への反対運動が高揚したこともある。こうなると、理屈もなにもあったものではない。

 勿論、沖縄世論の基地への不信は根深い。これは沖縄戦の記憶があり、また米国の占領時代に「解放者ではなく強権」を振り回した軍政への憤激という記憶もある。仮に米国の占領が懲罰目的だとして、懲罰の対象は東京の政府であるはずなのに、沖縄が苦しめられたという理不尽が、東京もワシントンも憎いという屈折した心理になるのも理解はできる。

 だが、少なくとも現在の在沖米軍はマリウポリを破壊しているロシア軍とは違う。どう考えても米国は同盟国であり、サンフランシスコ和平と国際連合の成立と「三位一体」となって太平洋の平和を保障するための日米安全保障条約に基づいて、日本を防衛するための平和の保障として駐留している。その友軍に他ならない米軍を、犯罪者のように嫌悪し、排斥を叫ぶというのは普通ではない。

 今回の新型コロナウィルス感染拡大においても、米軍基地からオミクロン株のクラスターが発生すると、沖縄の世論は米軍を感染源として嫌悪した。米軍に落ち度がないかとい言えば、ないわけではない。けれども、友軍である米軍をウィルスのように忌避するというのは異様である。

考えるべき米国から見た日米地位協定

 筆者は、かつて米国の公立大学に勤務していた際に、軍を退役した学生を教えたことがある。彼らの多くは、一定の年限を軍務に就いて奨学金の受給資格を得て大学に来ていた。日本の基地に勤務したことで、日本が気に入って日本語の学習を始めたというケースも多く見てきた。彼らに言わせれば、横須賀、厚木(ともに神奈川県)、三沢(青森県)、岩国(山口県)などは、全世界の基地の中でも勤務先としては人気の上位に入るという。

 だが、そんな彼らが言うのには、沖縄の勤務というのは神経を使うのだという。外出などの行動規範が厳しいし、現地社会の基地への視線にも冷たさを感じたというのだ。友軍であるのに友軍と思われていないということは、基地の中にいる米兵の心理にも影を投げかけている。

 基地の「負担」に関連しては、「地位協定」の問題があり、これもこの50年間議論が続いて来た問題だ。一般的には、まるで治外法権であり、不平等条約だから即刻改定がされるべきという理解がある。だが、米国側の見方は異なる。犯罪被疑者の取り調べに弁護士が同席できないような、不完全な刑事法制に自国の兵士を差し出すことは、米軍としては不可能というのである。

 従って、日本国内でも司法改革の中で議論が進んでいる「捜査の可視化・透明化」の改革を進めることが、地位協定見直しには必須である。勿論、米軍に納得してもらうために司法改革を行うのでは本末転倒であって、国家主権も何もあったものではない。だが、この問題が遅々として進まないようでは、地位協定の改訂は不可能である。この点を無視して、「不平等な地位協定」を怒ってくれる本土の野党と一緒にデモをしているだけでは事態は先へは進まない。

 この50年を振り返って、沖縄の世論に対しては辛口の問題提起をした格好となった。どの問題にも当事者ならではの複雑な経緯があるのは理解できる。けれども、本質に迫ることなく、同じようなスローガンを繰り返したのでは、問題は先へ進まない。この50年という年月が空費されたことが、残念ながらこれを証明してしまっている。

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