情け容赦ない攻撃は習近平思想の反映
とりわけ今回明らかになったのは、中共中央・習近平総書記の判断が、新疆の事態に絶大な影響を及ぼしていることである。
習氏は唯物論者である。人類社会のあり方を決定づけるのはモノの生産と経済それ自体であり、文化や宗教といったものは個別の発展段階に応じた付属物に過ぎない。中共の主導で経済的な環境が大きく発展すれば、社会的・文化的問題を生み出す起源である格差が消滅し、ゆえに民族問題も解消するはずだと信じている。
しかし新疆の少数民族は、経済発展で活発化する外国との往来やネット社会化のもと、少数民族独自の文化的価値観を再生産した。習氏は、彼らが必ずしも漢族を中心とした中国の主流社会に馴染まないことに不満を強めた。
そのような中、13年10月には天安門自動車突入事件が発生し、14年3月には雲南省昆明駅無差別襲撃事件が発生した。習氏はこれらを「新疆のイスラム恐怖主義分子(テロリスト)の犯行」と断罪し、その徹底的な鎮圧によって新疆、そして中国全体における「社会の安定」を実現しなければならないと考えるようになった。
14年4月30日、新疆における「恐怖主義・分裂主義・宗教極端主義」打倒のための視察を終えた習近平は、以下のように語っている(「習近平在新疆考察工作結束時的講話」)
「国外に種があり、国内に土壌があり、ネット上に市場があることが、三つの勢力(のちに「三毒」と呼ばれる)蔓延の原因である」。
「反恐怖闘争は国家の安全、人民群衆の切実な利益、改革発展安定の全局に関わり、我々には退却や譲歩の余地はない」
「先手で敵を制し、頭を現せば叩き、早く叩き、小さくても叩き、苗でも叩け。鉄の手腕で予防的に壊滅的な打撃を与えろ」
習氏は、問題の根源がそもそも「外」にあり、人々が僅かでも「外」の影響に染まってしまうこと自体が中国の安定を崩すと考えた。そこで多様な文化やつながりの中で平穏に生活している少数民族そのものを「病毒」と疑ったのである。
先述の陳全国発言は、新疆での「三毒分子打倒」を情け容赦なく先制攻撃的に進めよという習近平発言を忠実に遵守しているといえる。
〝異分子〟を強制収容や処罰
この結果、単にイスラム原理主義に共鳴する人だけでなく、外国と往来する人や、少数民族やイスラムの文化的価値に親しむ人、これらの人々に甘い態度をとる党官僚らを最新のAI・IT技術でふるい分けした。彼らに華語と、「中国の特色ある社会主義」の価値観を集中的に教育するために設けられたのが、「職業技能教育培養転化センター」と呼ばれる強制収容所であり、「外」の「毒」の程度が重いと見なされた人々は容赦なく重罪とされた。
中共は当初、「教育転化センター」の存在を「デマ」と否定していたものの、隠しきれなくなったためか、21年7月・9月に発表した「《新疆各民族の平等な権利の保障》白書」「《新疆の人口発展》白書」では、開き直って「教育転化センター」の存在を認め、「三毒勢力」を悔い改めさせて生まれ変わらせる措置である、としている。とはいえ、その期間は「すでに課程を終えて全員社会復帰した」という短期のものではない。「思想的に頑固な毒の瘤・伝染病を取り去るために、長期間の入院治療を受けなければならない」(「吐魯番市集中教育訓練学校訓練生子女問答対策」)という発想の下、半永久的に社会から隔離するものである。