6月14日、ガスプロムはノルド・ストリーム経由のドイツ向けガスの供給を40%削減すると発表した(翌15日にはこれを60%に拡大した)。その理由としてパイプラインの部品の定期修繕がカナダにあるシーメンスの工場で行われているが、それがカナダ政府の対ロシア制裁によって再納入出来なくなっているとの事情をあげているという。
しかし、その説明を鵜呑みにする向きはない。イタリアのドラギ首相が言うように、その説明は嘘であり、「小麦が政治的に使われているのと同様、これはガスの政治的利用である」に違いない。
既にポーランド、オランダ、ブルガリアに対するガス供給は停止されている他、幾つかの企業に対する供給も削減されているようであるが、ここに来て欧州の弱みに本格的につけ込む戦略の一手を打った(ガス需要が高まる冬には更なる削減を仕掛けるかも知れない)ということであろう。いわば西側の制裁に対して逆制裁をもって対抗する構えではないかと思われる。
その決定の背景には、エネルギー輸出が減っても、価格の上昇がこれを補って余りあるとの計算が働いたことがあるに違いない――ウクライナ侵攻以降100日のロシアのエネルギー輸出は930億ユーロで、2021年の輸出額の約40%を100日で稼いだことになるとの試算がある。
また、プーチン大統領が西側の制裁を乗り切れると信ずるに至ったこと(その判断の当否は別として)があるかも知れない。6月17日、サンクトペテルブルグの国際経済フォーラムで演説した同大統領は西側の制裁を「常軌を逸し(insane)」「狂気じみた(crazy)」ものと呼び、西側はロシア経済を暴力的に崩壊させることを予想したが、そうはならなかった、ロシア経済は正常化する、「ロシアに対する経済的電撃戦は最初から失敗する運命にあったのだ」と述べた。
欧州ではエネルギーと食料の価格が高騰し、5月のインフレ率が8.1%と高い水準を維持する状況にあって、6月9日、欧州中銀は7月に量的緩和政策を終了し政策金利を引き上げることを発表している。