5月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストのジャナン・ガネシュが、ウクライナ戦争を巡る仏独両国とその他諸国との間の分裂の状況を論じている。
ガネシュの論説は、ウクライナの戦争に立ち向かうフランスとドイツの姿勢を疑問視し、そこに欧州の分裂があると指摘し、仮にマクロンが唱える欧州の「戦略的自立」が実現していたならば、ロシアの侵略に対する欧州の姿勢は多くの欧州諸国と米国にとって不愉快なものであった筈だと観測している。その上で、まとまりのない欧州であっても、「戦略的自立」に縛られた一律に思わしくない政策よりもましだと皮肉っている。
そもそも、ウクライナ侵攻の前においても欧州各国の立ち位置には分裂の傾向が見られたが、ウクライナ侵攻が始まるや、ノルドストリーム2の停止と国防予算の大幅増額を含む、ドイツのショルツ政権の劇的な政策転換にも助けられ、欧州は対ロシア経済制裁と対ウクライナ武器支援の面で稀に見る結束を実現した。この結束が、首都キーウ防衛の成功を含むウクライナ軍の奮戦によって支えられたことは確かだと思われる。
しかし、この論説にも指摘があるが、欧州の結束は戦況の変化と同じ弧を描いて変化しかねない。ロシアは東南部に軍事力を集中して圧倒的な火力で制圧を目指し、戦争は消耗戦の様相を呈するに至っており(ロシアを「弱体化する」あるいは「ロシアをウクライナ全域から追い払う」との西側の発言は先走りに過ぎた印象がある)、欧州には先行きを不安視し、経済への悪影響を懸念し(悪影響はロシアにエネルギーを依存する度合いにより異なる)、和平への展望を探る兆候もあるようである。
5月9日、フランスのマクロン大統領は、いずれロシアとウクライナの両国は和平を求める時が来る、その時点では、1918年にドイツに起こったことだが、いずれの側も屈辱を味わい排除されることがあってはならないと述べた。マクロンは、「われわれはロシアと戦争している訳ではない。われわれは欧州人としてウクライナの主権と領土的一体性の保全に、そしてわれわれの大陸に平和を回復するために務める」ともツイートした。