米国の欧州向けLNG輸出量は、欧州のLNG輸入量の約半分を占めるようになっており、1月から4月の実績で2000万トン近くに達している。ロシアが欧州向け供給数量を削減する中で、フリーポートからの輸出数量が数百万トン以上減少することになり、夏場の不需要期とはいえ、天然ガスの需給には大きな影響が出る。そんな中で飛び出したのが、プーチン大統領によるサハリン2事業の国営化だ。
設備も燃料も不足する日本
発電設備の不足により停電危機に直面している日本は、燃料不足により必要な量の発電ができなくなり、電力需要量がピークの時だけでなく、常に節電を強いられることになるかもしれない。
フリーポート爆発事故に関する米国規制当局の姿勢が厳しく、操業再開まで時間がかかるとの観測が出るのを待っていたかのように、ロシア・プーチン大統領は、サハリン2事業国営化の大統領令を発令した。日本向けLNG供給の途絶あるいは減少も取りざたされ始めた。「日本向け供給停止の恐れはない」とのロシア政府報道官の発言も報じられているが、先行きは不透明だ。
資源エネルギー庁の資料では、日本の電力業界のLNG在庫量は、6月26日時点で215万トン。今の時期には2週間程度で消費される数量だ。
米国メキシコ湾からの航海日数を考えると、これから欧州、アジアでは米国産LNG入着量の減少が始まる。米国からの供給量減少の最中に、日本向けロシア産LNG供給が途絶することがあれば、世界のLNG価格は急騰する。
ロシアは、欧州と日本向け天然ガス供給量を削減することにより価格を上昇させることができる。天然ガスを武器として活用し、欧州諸国と日本の産業界と国民に打撃を与えることができる。
欧州委員会は、8月中旬からロシア産石炭の禁輸を開始する。これから天然ガス価格の上昇に加え、石炭価格も大きく値上がりする可能性がある。待ち受けるのは、電気料金の上昇だ。
原発を停止し、再エネ導入を進め、電力市場自由化を進めた結果、化石燃料依存度が上がり、石油火力設備は減少した。安定供給も競争力のある電力価格も置き去りにし、温暖化対策を旗印に再エネ導入を進め、自由化を進めた結果ではないか。
自給率を上げ、電気料金を抑制するため原発の再稼働を進める必要がある。規制委員会による再稼働の審査期間は2年と定められているはずなのに、大幅な超過が続いている。人員も資源も投入し再稼働を急ぐ必要がある。
日本には停電危機を和らげる有効な短期的な方策は他にない。節電ポイントで需要量の削減を図っても、国民生活と産業活動に影響があるだけで、抜本的な解決には程遠い。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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