2022年8月11日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年8月6日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 「中国人民の感情を傷つけた(傷害中國人民的感情)」という決まり文句があり、なんとウィキペディアにも項目が作られている。

 香港大学中国メディアプロジェクトのDavid Bandurski氏によると、1959年から2015年にかけて、中国共産党の機関紙「人民日報」には143回にわたり、この文言が使われている。「人民の感情」カードを一番乱発するトピックは台湾で、28回を数えるという。

盛り上がった世論は止まらない

 またまた「人民の感情」ですか、新鮮味がないですね……と当初は感じたのだが、予想以上のボルテージの上げ方には驚かされた。

 秋に中国共産党党大会を控えており、習近平総書記にとってはなんとしてでも失点は避けたいタイミングであること、ペロシ議長の台湾訪問が公表されておらず圧力を高めれば中止に追い込めると中国側が判断したことなどが背景にあるが、中国人民のテンションをここまで上げてしまって大丈夫なのか。「ペロシ議長が台湾に到着した瞬間に戦争が始まる」と素直に信じていた中国人民も少なくないはずだ。

 8月2日夜、ペロシ議長が台湾を訪問する直前にはいったいこれから何が起きるのだろうと、ネットに貼りついている中国人ユーザーが続出。大手ソーシャルメディアのウェイボーがアクセス数に耐えきれずダウンしたことも報じられた。

 報道されているとおり、中国はかつてない大規模な軍事演習という報復措置を行った。日本や米国ではこうした動きに不安を感じる声が上がっているが、一方の中国人民はというと肩透かしを感じている人が多いようだ。

 中国官製メディアは、軍事演習によって台湾の経済活動が阻害されている、台湾東部への弾道ミサイル着弾はミサイル防衛網をかいくぐって精密攻撃を加える能力があることを証明し、台湾への威嚇効果は大きく、報復がいかに効果的であるかを必死に説明している。しかし、テンションが上がりすぎた人民にその説明が届いているかははなはだ疑問だ。

 8月3日の中国外交部定例記者会見では、ロイター通信の記者から「中国がペロシ議長台湾訪問阻止のために、より多くのアクションを取らなかったことを一部の中国ネットユーザーは失望している。今後、彼らネットユーザーがより理性的に米中関係の発展を見るよう、誘導するのか?」という、なんともいやらしい質問が浴びせられた。

 華春瑩報道局長は「中国人民は理性的な愛国者である。自国が、自分たちの政府が、国家主権と領土の完全性を守る力があると信頼している」と反論してみせたが、痛いところを突かれたのではないか。

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