2022年8月11日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年8月6日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

「愛国者」熱のはけ口は?

 習近平体制成立から10年、中国共産党は強力なネット世論誘導能力を身につけてきた。胡錦濤体制下では政権の無能や政治の腐敗への批判がネット世論の中心的なトピックであったが、今ではそうした声が広がることはほとんどなくなった。

 新型コロナウイルスへの対応でも、現行のゼロコロナ対策ではオミクロン株への対応は難しいことは明らかだが、中国国内では海外に比べれば中国政府はよくやっていると支持するムードがいまだに大勢を占めているようだ。

 ならば、燃え上がらせたネット世論も簡単に鎮火できるのだろうか? テンションを上げるのも、理性的愛国者に戻すのも自由自在なのだろうか?

 そこまでの統制はできていないのが現状だろう。むしろ、盛り上がりすぎた世論に押されて当局が譲歩せざるを得ないポピュリズム的な事例は少なくない。

 昨年8月には遼寧省大連市にテーマタウン「盛唐・小京都」がオープンした。古代中国の都である長安や日本の京都に似せた街並みの商業施設が売り文句。地元政府肝いりの大型プロジェクトだったが、「満州国の一部だった大連市で日本風の街並みとは言語道断」といった批判を受け、オープン後まもなく休止に追いやられてしまった。

 反政府分子の摘発はお手のものでも、〝正しい愛国者〟による「もっと愛国を」という中国版ポリティカル・コレクトネスには政府もなかなかノーを言えないというわけだ。

 さすがに脳天気なネット世論に押されて戦争勃発とまでは考えづらいが、排外ムードの高まりが外資招致など経済問題に影響することは十分考えられる。そもそも、近年の米中関係の緊張やウクライナの戦争もあって、中国のリスクを再評価しようという機運が高まっているタイミングである。

 ここに台湾侵攻に向けてテンション爆上げの中国ネット世論は、中国事業の未来を憂いている企業担当者、外資招致のためにがんばっている地方政府担当者からすると、気が重くなる話であろう。

 ペロシ議長台湾訪問という燃料を得て、ますます燃え上がる中国版ポリティカル・コレクトネス。このファクターが中国の政治、経済にもたらす影響は注視する必要がある。

 
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