命を脅かす緊急事態に直面したとき、専門家の意見をどう政策に生かしていくのか、その基準つくりを政治家側がきちんと考えていないことの表れではないか。そもそも、同様のことは、福島第一原発事故の後にも指摘されたが、10年間ないがしろにされてきた。
同じ光景が新型コロナで再び見えている。失敗の歴史を繰り返して、学んでいないということを政治家は重く受け止めなくてはならない。
成功してても、柔軟に対応を
今回の新興感染症で、日本の医療体制の不備、コミュニケーションの不全、ワクチンの国内製造体制の脆弱性など多くの問題点が露呈した。新型コロナが終息した後、政府はこれを検証するだろうが、福島第一原発事故の時のように1年検証しただけで、後は何も改善しないということはあってはならない。
今年5月に、世界保健機関(WHO)でSARS対策の陣頭指揮をとり、今回の新型コロナのクラスター対策班の班長を務めた押谷仁・東北大学教授は英科学誌Nature5月26日号に「新型コロナも当初、SARSのように終息すると思っていたがそうではなかった」と反省をした上で、「科学者や政府のアドバイザーは長期的に正しいバランスがわかっていない事実に取り組まなければならない」と指摘している。
命を脅かす緊急事態は、いつ襲ってくるかわからない。その脅威は先が全く読めないことが少なくない。当初良かった対策はすぐに有効でなくなる。絶えず状況は変化すること、いつまでも成功にこだわってはいけない。「成功精進」、柔軟な姿勢が求められる。
ウイルスの変わり身の早さのように、対応が求められるということだろう。政治家を含め、われわれも肝に銘じたい。