2024年4月17日(水)

インドから見た世界のリアル

2022年9月11日

 このように中国軍の配備状況や、インフラの状況を見てみると、インド軍の防衛体制は、どうしても不安になる。インド軍が強い軍隊だとしても、十分な補給や整備なしでは不利な戦いを強いられる。

 ただ、インドが不利な要素ばかりではない。例えば、中国軍は標高が高い場所の飛行場から戦闘機を飛ばす。そうすると、空気が薄いから揚力が得られ難く、弾薬や燃料の搭載量を少なくして、軽くして飛ばざるを得ない。一方インドの飛行場は、標高の低いところにあるから、そのような制約がない。空軍同士の戦いでは、インドは負けていないのである。

 ラダクの観光名所ヌブラで絶景を眺めていると、インド軍の戦闘機が次々、轟音を立てて飛んでいった。状況からして、インドに反撃のチャンスがあるとすれば、それはインド空軍の働きにかかっているといっていいだろう。

絶景の地、ヌブラ。ヨーロッパの女子大生のグループはじめ観光客が来ており、その上空をインド空軍の戦闘機が次々飛んでいった

印中対立が動く二つの可能性

 このような印中国境の情勢であるが、この地域に注目しているのは、インドと中国だけではない。今、米国が動き出している。

 筆者がラダクを訪れていたちょうどその時、ラダクに隣接するインドのヒマラチャル・プラデシュ州には米国軍がきて、インドとの共同演習を実施していた。21日間にわたる長い演習だ。10月には、再び米国軍がきて、印中国境(実効支配線)付近で共同演習をする予定である。

 米国は、最近、台湾付近でも、政治家の訪問を活発にし、台湾海峡を航行する軍艦の数も増やしている。中国側の活発な軍事的拡張主義に対し、より強い対抗策を示している。

 それは、台湾だけでなく、印中国境でも同じだ。以前より、明らかに活発に米国軍を展開させるようになっている。そもそも、印中国境に展開するインド軍は、多くの米国製装備を有している。インド軍全体ではロシア製装備の方が圧倒的に多いから、この傾向は特徴的である。米国が印中国境のインド軍増強に力を注いでいることがわかる。

 このような傾向から、今後、印中国境地帯が、台湾と同じく、米国の対中戦略の要になっていくことが予想される。

 今後、印中国境はどうなるだろうか。このままいくならば、中国がインド側への侵入を続け、対立が深まる方向性にある。だが、それ以外にも、いくつか、動く可能性がある。

 一つは、ダライ・ラマに何か起きる場合だ。ダライ・ラマは高齢である。もしダライ・ラマに何かあったら、チベット仏教では、ダライ・ラマは生まれ変わる。問題は、そのような時、チベット側だけでなく中国政府側も生まれ変わりを主張し、チベット仏教側のダライ・ラマと、中国政府が指定するダライ・ラマの2人のダライ・ラマが登場してしまうかもしれない。中国側がチベット仏教側のダライ・ラマに対し、暗殺や誘拐など、害することも考えられる。

 そんなことになれば、チベット内で反感が高まり、地域の情勢は不安定化する可能性がある。この質問を現地でいろいろな有識者にぶつけてみたが、筆者同様に懸念する人が少なくなかった。

 もう一つの動因は米中対立だ。米中対立の激化に従って、印中国境に隣接する、中国のチベットや新疆ウイグル自治区における、中国の統治能力が落ちるようなことがあれば、それらの地域が独立する可能性が出てくる。

 ラダクで有識者にチベット独立の話をすると、明らかにうれしそうだった。だが、独立の過程は、必ずしも平和的とは限らない。中国の統治能力が落ちた時、チベットや新疆ウイグル自治区では反乱がおきるだろうか。その際、米国やインドは反乱支援、または直接的に軍事介入するだろうか。問われてくるだろう。


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