「衝突」最前線の現場
レーに着いてすぐ気づくことは、大規模な軍の展開であった。空港は、軍民両用であり、周りも軍の駐屯地であり、軍の大型輸送機が次々離着陸していた。
民間機の乗客も軍関係者が多く、迷彩服の乗客も珍しくない。そして、レーの空港では、戦闘機駐機用の格納庫、次々来る軍人用の宿舎、民間用の空港ターミナルなどの建設が急ピッチで進められていた。
町中に入れば、買い物する軍人たち、銃を持って警備にあたる男女の軍人や治安部隊、軍人相手のレストランや装備品を売る店など、ここが中国との軍事行動の最前線であることを示すものが目に入る。軍の博物館へ行った際、警備の軍人からいろいろ聞かれた。この軍人は、大変丁寧で礼儀正しい人だったから、最後は握手して別れたが、その軍人が向こうに行く際、「日本人だ」と同僚たちに報告しているのが聞こえた。おそらく中国人だったら問題なのだろう。
この博物館内では、地元への説明責任の関係上、できるだけ情報を公開しているものの、軍の戦車部隊展開を示す一部の展示は撮影禁止になっている。インド軍の展開を示すビデオなども、インド軍に導入されたばかりの装備が映っていて、おそらく最新のビデオを放映しているものとみられる。こういった展示を中国人にみられたくないのだ。
レーを離れ、パンゴン湖に行く際も、軍の展開は明らかであった。山間部の道路に、軍の車両が多数走っているからだ。軍の展開のために道路建設も各所で行われていた。
ただ、道路の状態はあまりよくない。道路はレーと、印中国境のパンゴン湖の、両方から建設が進められていた。岩だらけの山を削り、平らにして、舗装し、さらに拡張していくのである。
しかし、レーとパンゴン湖の間、その中間地点の道路は、岩を削るところまではきていたが、舗装されておらず、車で走るとはげしく揺れ、パンゴン湖につくまでに、筆者が上下逆さまになっているのではないか、と思うほどだった。幅も狭く、1車線と少し程度の幅しかない。
その道路を、軍の大型車両、道路工事の重機、現地の住民の車、観光客の車が行き来し、交通量も多い。途中、道路をはみ出し、崖から落ちた軍の車両がいくつか、放置されているのをみつけた。
住民の軍への感謝と一抹の懸念
興味深いのは、軍と住民との関係である。例えば道路であるが、軍の車両が来ると、住民たちの車が、道の片側に止まって、軍に道を譲っていたのである。日本で言えば、警察や消防の車がサイレンを鳴らしてきたとき、道を開けるような状態だ。
聞けば、これは法律で定まっているわけではなく、住民が自ら進んで軍への感謝を示すために行っているそうだ。中国による侵略の脅威は、住民への強いプレッシャーになっており、住民たちは、軍への支持を強めている。そういった雰囲気を強く感じる状態になっていた。軍の博物館の売店も混雑しており、軍のグッズが売り切れ続出状態、筆者は何も買えなかった。