どうやって、国内生産をスムーズに立ち上げたのか?
そして、もう一つのポイントは、超短期間で国内生産に切り替えたことだ。新型コロナがまん延したとき、シャープが1カ月でマスクの国内生産を始めた。それを可能にしたのは、一番用意に時間のかかるクリーンルームが余っていたからだった(『家電メーカーが作るマスク、最強はどれか?』)。同時期に国内生産をしようとしたアイリスオーヤマは、クリーンルームを作るために時間を要し、シャープより4カ月遅れた。
今回、ネックになりそうなのは、成型機だ。余っていれば、短期で生産切り替えができるし、そうでなければ、状況にもよるが、半年くらいかかることもある。しかし、今回はアイリスオーヤマの埼玉県深谷工場ですぐに製造できるとのことだ。
アイリスオーヤマへ、成型機が余っていたのか? と問い合わせると、「違う」とのことだった。では、どうしてできたのかというと、元々の成型機の稼働率が低かったので、対応できたとの回答だった。
普通、成型機ラインは、休まず稼働することが当たり前だ。成型機を止めるのは、同じ金型で樹脂色を変えたりする時だけだ。金型内に残っている色樹脂を、新しく成型したい色樹脂で押し流すのだが、これには時間がかかる。
例えば、ちょっと複雑な金型の場合、黒樹脂のあと、透明樹脂で成型しようとしたら、最低でも数時間、場合によっては十数時間押し流す必要がある。こんな場合は、生産効率が一気に落ちる。それを避けるために、金型はできる限りシンプルにつくる。このため、生産は連続で、休まずというのが成型機の基本だ。
しかしアイリスオーヤマは工場稼働が70%だという。これは社の方針だそうだ。ここは一般的なメーカーとは異なる。この余裕分があったから、今回の上乗せ分を吸収することができた。余裕をもった生産体制にしていたことで、状況変化に対し柔軟な対応を産んだわだ。
そして、オーナー企業の真骨頂とも言えるのが、アイリスオーヤマの決断と対処の迅速さだ。これが大手メーカーだったら、例えば、ウクライナ戦争が1年後に終わる場合、2年後に終わる場合などと、と綿密にシミュレーションをしたりする。しかし、その通りに行くのかは不明だ。このような場合、先を読んで正確に動くことより、タイミングよく動くことだ。また完全を期すとプランは大きくなる一方だ。むしろ、手持ちの材料で対応できるなら、とりあえず手を打つのがベターだろう。
シェイクスピアの悲劇「マクベス」のセリフではないが「やってしまってことが済むモノなら、さっさとやってしまった方がよい」を地で行くような話だ。
国内で価格があわず、海外で生産していた製品の一部が、日本に戻され、価格が合うことになってしまった。今まで、品質、技術で国内で作りますというのはあったが、価格のために国内生産というのは、あまり例がなかった。国内生産回帰の第一歩となるだろうか。