2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年5月23日

 今次国防白書の中身はこれまでと異なり、テーマごとに書かれており、総体的ではない。したがって、過去の白書の体裁と比べることは必ずしも妥当ではない。しかし、曖昧さが増していることは間違いない、と言うことです。

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 上記のように、中国国防白書の「核先制不使用」という核戦略について、二つの異なる解釈があります。白書の体裁変更等にも関係があるようですが、明確なことは、「核先制不使用」と言う直接的表現がなくなり、かわりに曖昧な表現が使われているということです。これは、「核先制不使用をやめる」、というほど明確な表現ではありませんが、かといって、「核先制不使用を続ける」、という表現でもありません。

 少なくとも、半世紀にわたって続けられてきた核政策の中心的表現が今回、変わったことは事実です。この変更がいかなる理由によるものかについては、今後の中国の説明ないし行動に待つほかないのかもしれません。

 一見、相反する二人の論者の意見は、今回の国防白書の表現が「曖昧なものになった」、と言う点では一致しています。確かに、50年間同一の表現を使用してきて、なぜ今の段階で違った表現にする必要があるのか、中国共産党の常識に従えば、戦略の核心部分はそう簡単に変えるべきものではないはずです。想像の域を出るものではありませんが、これは、この核政策の核心部分を曖昧にする、つまり、曖昧政策をとるという意図から出てきたものではないかと思われます。中国としては、曖昧政策が、核及び通常兵力の有する抑止効果を高めることにつながる、と判断した可能性もあります。

 今の時点でこのような動きが出てきたことは、アクトンのいうように、北朝鮮の事態に直接的に刺激された結果かもしれませんし、あるいはより広く、東シナ海、南シナ海の関係国を含め、アジア全般への回帰傾向を見せる米国を牽制することを意図しているのかもしれません。

 いずれにしても、核兵器を含む中国の軍事力に関する不透明性が一段と強まったということが言えるでしょう。

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